世界防衛ー社説・時論公論.etc-1



2022.08.08-REUTERS-https://jp.reuters.com/article/asia-pelosi-idJPKBN2PE008
焦点:崩れる米中パワーバランス、日本の防衛費増額に追い風か

  [東京 8日 ロイター] - ペロシ米下院議長の訪台で高まった台湾海峡の緊張は、この20年余りで起きたアジアのパワーバランスの変化を浮き彫りにし、防衛費増額を目指す日本の政府や与党には支援材料となった。財源確保が課題の1つだが、1996年の危機に比べて抑制的だった米軍の関与を確かなものにするため、政府内からは自助努力の姿勢を示す必要があるとの声も出ている。

  「日本は何もしていないのに中国が日本のEEZ(排他的経済水域)に弾道ミサイルを撃ちこむ状況になった」。中国の弾道ミサイルが初めて日本のEEZ内に落下した翌日の5日、自民党の会合に出席した小野寺五典元防衛相はこう語り、「しっかりした防衛力、特に反撃能力の保持について、一刻も早く政府として方針を決め整備に当たって欲しい」と呼び掛けた。

  与党・自民党は防衛費を国内総生産(GDP)比で現在のおよそ1%から2%へ引き上げることを事実上の公約に掲げる。
  岸田文雄政権も、数値を具体的に示さないながらも大幅な引き上げを国際社会に約束した。政府は年末までに国家安全保障戦略防衛大綱を見直すとともに、今後5年間の防衛費を決定する。
  もともとはロシアによるウクライナ侵攻を受けて固まった流れだったが、ペロシ氏の台湾訪問に抗議する形で中国が実施した大規模演習が拍車をかけている。「台湾に何かあれば我々も影響を受けるということを明確に示した」と、外相や防衛相を歴任した自民党の河野太郎広報本部長は5日、ロイターの取材にこう語った。
  日本にとって軍事力の増強は国論を二分する議論だが、「明らかに流れは変わりつつある」と述べた。

  さらに96年時に比べて抑制的だった米国の対応が、日本の防衛力増強議論を後押ししている。「冷戦時代は自動的に(日本を)守ってくれたが、今は日本がそれなりの努力をしなければ日米同盟だって作動しない」と、安全保障政策に携わる政府関係者は指摘する。「我々はその現実を目の当たりにしている。自分たちでやるべきところはやらなくてはいけない」と、同関係者は言う。

  台湾初の総統直接選挙をきっかけに中国がミサイル演習を展開した95─96年の台湾海峡危機時、米国は空母1隻を海峡に、もう1隻を付近に派遣して事態を収集した矛を収めざるをえなかった中国は、軍事力の強化に乗り出した

  米空母を標的にした弾道ミサイルや、グアムを射程に収める弾道ミサイルなどを開発・配備し、人民解放軍が台湾に侵攻しても米軍機や艦艇が来援できないようにする「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略の構築を進めた。さらに南シナ海で米軍が自由に活動できないよう、岩礁を次々と埋め立て海域を要塞化し、今年6月には3隻目の空母が進水した。
  米軍は今回、台湾海峡に空母を送った96年時と異なり、空母や強襲揚陸艦を含む4隻を台湾東方の海域に待機させるにとどめた。また、ペロシ氏と議会代表団を乗せた米軍機は2日にシンガポールを離陸した後、南シナ海を避け、インドネシアのボルネオ島とフィリピンの東側を通る迂回ルートで台湾へ向かった
<進まない財源議論>
  米政府関係者はロイターに対し、不要に問題をエスカレートさせたくないと説明。国防総省の関係者は「ペロシ氏の渡航をコントロールすることはできないが、我々の反応をコントロールすることはできる」と語っていた。
  「96年とは全く違う。政治的にそう決断したのだろうが、その背景には中国の軍事力が向上したため、ということがあると思う」と、笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏は指摘する。
  「もし今回も(中国が)96年当時の軍事力であれば、力ずくで抑えにいったかもしれない」と、海上自衛隊の駐中国防衛駐在官だった小原氏は言う。

  防衛省から説明を受けた自民党関係者によると、来年度の防衛費概算要求は過去最大の約5兆5000億円。財務省は金額を明示せずに要求項目だけを盛り込むことを容認する方針で、年末に向けて積み増しを協議する。
  最大の問題は財源で、岸田首相は「内容と予算と財源を3点セットで考える」としており、国債発行や増税、政府支出の効率化などあらゆる選択肢が俎上(そじょう)に上る。しかし、財務省関係者によると、本格的な検討は進んでいない。防衛費そのものの無駄を省いたり、安保環境の変化に合わせて自衛隊の体制も見直す必要があると、同関係者は指摘する。
  「日本はウクライナ、さらに今回の台湾における米国の対応を見て、きちんと拡大抑止を機能させるためには自分たちの力で戦う姿をみせる必要があると痛感したと思う」と、拓殖大学の川上高司教授は言う。「有事の際に米国が助けに来ないという事態を避けるため、防衛力を増強する必要がある
  岸信夫防衛相は5日、中国の軍事演習を受けた日本の対応を記者団から問われ、「大きな影響を与えるものだと思っている」とコメント。防衛費について、「我が国の安全保障環境が厳しさを増す中で、将来にわたり、我が国を守り抜くために、必要な事業をしっかりと要求していきたい」と語った。


2022.05.25-AERA dot(東洋経済」).-https://dot.asahi.com/toyo/2022052300060.html?page=1
池上氏解説「日本の防衛力」は世界でどのレベルか
軍事力はアメリカが突出して1位、中国も追随

(1)
  ロシアによるウクライナの軍事侵攻中国から台湾への圧力頻発する北朝鮮のミサイル発射など、いま世界情勢は危険な動きを見せています。何かあったときに、果たして自衛隊は私たちをしっかり守れるのでしょうか。諸外国の軍隊と比べ、自衛隊の能力はどの程度なのでしょうか。
   世界の軍事力の動きと日本の自衛隊について、基本的なことを知るために、『20歳の自分に教えたい現代史のきほん』(池上彰+「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ・著)より、一部を紹介します。

ロシアの脅威に徴兵制を復活させた国々
  長い目で見ると徴兵制自体は減ってきているのに、近年、このままでは自国を守れないと徴兵制を復活させた国があります。それがウクライナ、リトアニア、ジョージア、スウェーデンなどヨーロッパの国々です

  復活の理由はロシアの脅威です。特に2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合した事件は、ロシアと地理的に近いヨーロッパの国々に衝撃を与えました。
  たとえばスウェーデンは、ロシアがバルト海での軍事演習を活発化させたため、スウェーデンに攻めてくるかもしれないという危機感から2018年に徴兵制を復活させました。
(2)
  ウクライナが徴兵制に戻したのは、ロシアによるクリミア併合の直後です。ウクライナはクリミア半島を占領されただけでなく、親ロシア派勢力が支配する東部の2つの地域が独立を宣言するなど、領土の切り崩しに遭いました
  当時のウクライナの兵士は5万人程度。これではロシアの脅威に対応できないと考えたからです。

  2021年までに兵員は20万人にまで増え、兵役が終わった後も、いざというときは軍隊に戻る予備役の兵士も90万人になりました。この軍隊が2022年2月のロシア軍侵攻に立ち向かったのです。
  フランスでは、2015年のパリ同時多発テロ(130人死亡)などの影響で一時、徴兵制復活の声が上がりました。しかし、多くの国民の反対により復活は取り止めに。その代わりにできたのが国民奉仕制度です。
  対象は16歳で期間は約1カ月。制服を着て軍施設での合宿や奉仕活動を集団で行います。2019年にスタートし、最初は対象人数を絞って実施されました。将来的には義務化を目指しているともいわれています。
  フランス政府が、若者たちに国を守る意識を植え付けようと考えていることがわかりますね。
日本は世界の中でどのくらい強いのか?
  志願制、徴兵制と人集めの方法は国によっていろいろです。しかし問題は軍事力です。世界に軍隊を持つ国がたくさんある中で、日本はどのくらい強いのでしょうか。
  軍事費や兵士の数など50以上の項目を総合的に評価した軍事力ランキングを見てみましょう。142の国と地域の中で日本は何位なのか?
  なお、ここでは軍事力と言っていますが、日本に限っては、軍隊ではなく専守防衛の自衛隊なので防衛力といいます。

  トップは予想通りアメリカ。でも、日本も5位に入っています。軍事大国や隣の国と緊張状態にある国が上位を占めるなか、日本が5位というのは過大評価のような気がしないでもありません。
  評価のポイントの1つは、経済力です。何しろ日本はGDPで世界3位。防衛力の裏付けとなる経済力が大きいからこそ、防衛費にお金をかけられます。もう1つのポイントは最新兵器です。アメリカから購入している最新兵器は極めて高性能で日本の防衛力を高めてくれます。
  こういった点が評価されて5位という結果につながったのです。
  現在、軍事で世界一強いのはアメリカです。では、10年後は?あるいは20年後はどうでしょう?
  近い将来トップに立つかもしれないといわれているのが中国です。もし今戦ったら、アメリカ軍に勝つだろうと見る人もいます
(3)
  軍事にかけているお金はアメリカが圧倒的に多く1位です。でも、2位は中国アメリカと中国を足すと世界の軍事費の半分以上になるほど、両国の軍事費は突出しています。
  現在、アメリカは中国を大きく引き離しており、中国がアメリカを追い抜くなんて考えられないと思うかもしれません。しかし、ここには数字のカラクリがあるといわれています。

  中国が公表している軍事費(国防費)には、海外からの高額な軍事装備品の購入費などは含まれていません。同様に軍事研究のような関連する研究費も含まれておらず、そういうものを全部入れると、実際の金額は公表値よりもはるかに高くなるといわれています。
  こういった指摘をして、中国は軍事費を低く見せていると批判すると、中国はアメリカだって同じじゃないかという言い方で反論してきます。真相は不明ながら、少なくとも中国としては、なるべく軍事費を低く見せたいという意図を持っていることは確かなようです。
  中国の軍事費を調べてわかることは、増え方が異常に早いことです。2010年と2020年でどれだけ軍事費が増えたか見てみると、中国はほぼ倍増アメリカは意外なことに1割減らしています。年間の軍事費ではアメリカが1位でも、増え方は中国がダントツの1位です

  『防衛白書2021年版』によれば、中国が公表している国防費は1991年度からの30年間で約42倍に達しました。これからもどんどん増えそうです。となると、いずれ中国は軍事費でもアメリカを抜くかもしれない。それほどの急激な増加です。

  ここで兵士の数に目を向けてみます。中国にはアメリカを上回るものすごい人数の兵士がいるアメリカ軍140万人に対して中国は218万5000人です。中国人民解放軍は少数精鋭の軍隊にしようと人員削減を進めており、最近、30万人を削減しました。それでもまだ200万人以上います

池上 彰(いけがみ あきら)Akira Ikegami
ジャーナリスト
1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。
1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。
2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。
2013年、第5回伊丹十三賞受賞。
2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。
著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち<政治家編>』(集英社新書)など


2022.04.06-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220406/k10013569181000.html
米英豪 極超音速兵器の共同開発を発表 中ロ対抗ねらいか

  アメリカとイギリス、オーストラリアの3か国による安全保障の枠組み、AUKUSが首脳声明を発表し、音速をはるかに超える速さで飛行する最新兵器、極超音速兵器の開発を共同で行っていくと発表しました。先行して開発を進めているとされる中国やロシアなどに対抗するねらいがあると見られます。

  アメリカとイギリス、それにオーストラリアの3か国による安全保障の枠組み、AUKUSは5日、首脳声明を出し、極超音速兵器やその迎撃技術などの開発を共同で行っていくと発表しました。
  極超音速兵器は、音速の5倍に当たるマッハ5以上で飛行することなどから迎撃が難しいとされ、3月にはロシアがウクライナでの実戦で使用したと発表したほか、北朝鮮も、ことし1月に発射実験を行ったとしています。

  この兵器をめぐっては、中国やロシアが先行して開発を進めているとされアメリカなど3か国としては新たな枠組みで連携して開発を急ぐことで、中国やロシアなどに対抗していくねらいがあると見られます。
  去年9月に設立されたAUKUSは、海洋進出を続ける中国を念頭にオーストラリアの原子力潜水艦の配備を技術面で支援するほか、サイバーやAI=人工知能の分野での協力も行うなど軍事面の連携を深めています。
官房長官「時宜を得た対応と評価する」
  松野官房長官は、午前の記者会見で「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け、地域の平和と安定の確保は最も重要な取り組みの1つだ。ロシアによるウクライナ侵略を受け、インド太平洋地域でも、同盟国や同志国の安全保障協力のさらなる強化が求められており、時宜を得た対応だと評価する」と述べました。
  そのうえで、「引き続き、安全保障や防衛面で重要なパートナーであるアメリカ、オーストラリア、イギリスとの間で、さまざまな形で連携を強化していきたい」と述べました。


2021.04.16-NHK NEWS WEB-https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/447911.html
「日米首脳会談 対中国で同盟強化どこまで進む」(時論公論)
2021年04月16日 (金)-梶原 崇幹  解説委員

  アメリカを訪れている菅総理大臣は、まもなく初めての日米首脳会談に臨むことになっています。中国との関係を21世紀最大の試練と位置付けるバイデン大統領は、ホワイトハウスに招く初めての外国首脳に菅総理大臣を選びました。会談では、対中国戦略をすり合わせるものとみられ、きょうは、安全保障面で同盟強化がどこまで進むのか、会談の行方について考えてみたいと思います。

  バイデン大統領は、政権発足2か月で、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2を東京で開いたのに続き、対面による初めての首脳会談に菅総理大臣を選びました。日本を重視する姿勢が際立っていますが、その狙いは中国への対抗にあります。
  バイデン大統領は、先月(3月)、中国との関係について、「民主主義と専制主義との闘い」と述べ、体制間の争いであると定義づけました。そして、習近平国家主席を「民主主義の小骨すら、その体にない」と評しました。
  アメリカが日本を重視する背景には、最前線に位置する日本の重要性が増していることがありそうです。

  ただ、政府関係者は、アメリカには、唯一の超大国であったかつての余裕はないと指摘します。経済規模でみれば、中国はすでにアメリカの7割近くに迫っており、7年後の2028年には、逆転するという試算もあります。強い危機感の中で、アメリカは、「日本を『戦略上のパートナー』として、安全保障から経済まで、幅広い分野で責任を分担しようとしている」というのです

【会談の焦点① 安全保障】
  菅総理大臣は、今回の会談で、普遍的な価値で結ばれた日米同盟をさらに強固なものにしたいとしています。
  会談の主なテーマは、安全保障、経済安全保障、北朝鮮による拉致問題、気候変動対策、新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題などとみられていて、会談後に共同声明を出す方向で、調整が進められています。

  このうち、安全保障と経済安全保障についてみていこうと思います。
  安全保障で焦点になるとみられるのは、(A)中国の現状変更の試みへの対応、(B)崩れる軍事バランスへの対応、(C)台湾情勢です。
〈(A)現状変更の試みへの対応〉
  まず、現状変更への試みについてです。
  東シナ海や南シナ海で、中国の海洋進出の動きがエスカレートしています。けん制のため、首脳レベルでも、中国の動きを、民主主義や法の支配に対する挑戦ととらえるなど、中国を名指しして、強いメッセージを出すのか、注目されます。この中で、菅総理大臣は、尖閣諸島が、日米安保条約第5条の適用対象であることの確認を求めるとともに、中国の海警局に武器の使用を認める「海警法」が国際法に反する恐れがあるなどとして、問題点を指摘するものとみられます。
〈(B)崩れる軍事バランスへの対応〉
  会談では、太平洋地域の安全保障環境についても、話し合われる見通しです。
  先月(3月)、アメリカのインド太平洋軍司令官が、アメリカ議会で証言し、「地域の軍事バランスはアメリカと同盟国にとって不利に傾いている」と述べ、波紋を広げました。
  アメリカ軍によりますと、4年後の2025年の段階で、アメリカのインド太平洋軍の戦力は、主力戦闘機や戦闘艦艇の数で、中国軍に大きく劣るとしています。
また、在日アメリカ軍を射程に収めるミサイルを中国は大量に保有していますが、アメリカは、これまでロシアとのINF条約によって、中距離の地上発射型のミサイルは、1発も保有していません。

  地域の軍事バランスの崩れは、中国の拡張主義的な動きを誘発すると指摘されていることから、対応が話し合われるものとみられ、日米に、オーストラリアとインドを加えた4か国による枠組みや、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国との連携強化を確認するものとみられます。
さらに、同盟国に公平な負担を求めるとしているバイデン大統領が、会談で日本にどのような期待を示すのか。日本にとっては、防衛費の増額やミサイル阻止能力などにつながる可能性もあるだけに、菅総理大臣は、日本の果たせる役割について、明確に伝える必要があります。
〈(C)台湾情勢への対応〉
  安全保障分野で、もっとも関心を集めているのは、首脳レベルで、台湾情勢をめぐるメッセージを出すかどうかです。
  先の外務・防衛の閣僚協議では、文書に、「台湾海峡の平和と安定の重要性」が盛り込まれました。外務省幹部によりますと、中国は、これに「激怒」したということです。台湾情勢が首脳レベルの文書で触れられたことは、日中国交正常化以降はなく、今回、共同声明に台湾情勢の記述が盛り込まれれば、中国が強く反発するのは確実です。

  なぜ、台湾情勢が日米で話し合われる見通しとなっているのでしょうか。
  それは、軍事バランスが崩れる中で、台湾が米中の衝突の発火点になる恐れが指摘され、そうなれば日本への影響も避けられないからです。
  日米双方とも、中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる台湾有事がただちにあるわけではないという見方が大勢ですが、アメリカ軍の幹部は、先月(3月)、アメリカ議会で、台湾有事の時期は「想定よりずっと近い」と証言し、懸念を示しています。

  アメリカは、台湾関係法で、平和的な方法によらない解決に反対する姿勢を明確にしていますが、防衛義務までは負っていません。しかし、アメリカ軍の幹部は、議会で、「台湾侵攻を許せば、地域でのアメリカの信頼に深刻なダメージになる」と述べました。複数の日本政府関係者は、有事になれば、アメリカは介入するという見方を示しています。
  一方、中国の習主席は、2019年の演説で、平和統一を目指すのが基本としながら、「武力行使を放棄することはしない」と述べました。
米中両国が一歩も引かない中、去年以降、中国軍は、台湾周辺で有事を想定した大規模な軍事演習を頻繁に行い、緊張した状態が続いています。
  そしてなにより、台湾有事は、日本への影響が懸念されています。仮にアメリカが介入すれば、在日アメリカ軍基地を使おうとするとみられています。
2017年にアメリカのシンクタンクが公表した、中国のミサイル戦力に関するリポートによりますと、中国軍は、横須賀基地など、在日アメリカ軍基地を模した実物大の標的を西部の砂漠地帯に作り、ミサイルの発射実験を行ったということです。
  政府関係者は、今回の会談で、両首脳は、台湾情勢について、相当突っ込んだ話をするだろうとしています。日本は、中国の動きをけん制したいものの、過度な緊張や、日中関係の決定的な悪化は避けたいところです。両首脳は、けん制の効果を見極めて、対外的なメッセージを出すか、対応を決めるものとみられます。
【会談の焦点② 経済安全保障】
  もう1つの焦点は経済安全保障です。この分野でも米中の対立は激しくなっています。

  アメリカは、中国への依存がリスクとなる先端分野などで中国との切り離しを進めており、バイデン大統領は、ことし2月、大統領令で、供給網の見直しに着手しました。
  中国も、習近平国家主席が、去年4月、中長期の経済戦略について見解を示し、「ほかの国が、中国の産業に依存するようひきつけ、経済の切り離しの動きに反撃力と抑止力を持つことを目指す」と述べ、他国を中国の供給網に依存させ、アメリカに対抗しようとしています。
  こうした中、首脳会談では、半導体などの供給網の構築や、AI、人工知能などの先端技術の開発などで、日米の連携を話し合うものとみられています。

(まとめ)
  今回の日米首脳会談は、アメリカが、同盟国と連携しながら、中国との大国間競争を勝ち抜こうとする流れで開かれます。バイデン大統領の同盟国重視の姿勢は、とりもなおさず、同盟国に、より大きな責任を求めることを意味します。
ただ、アメリカも、気候変動分野などでは、中国と協力する考えを示しています。日本も、中国との安定的な関係を重視しています。
会談で、菅総理大臣には、日米の連携をどこまで進め、どのような役割を担おうとするのか。日本の立場を明確に示すことが求められています。
(梶原 崇幹 解説委員)







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