わいせつ-無くせるか?-2



2020.09.28-沖縄タイムス-https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/639083
社説-[性被害者「蔑視」発言]「心の傷」さらに深めた

  政府が性犯罪や性暴力への対策を強化する方針を決め被害者ケアにも力を入れようとしている中、事実であれば耳を疑うような発言だ。
  自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が党内の会議で、性暴力被害者の相談事業を巡り女性はいくらでもうそをつけますから」と述べたという。 杉田議員は否定しているが複数の出席者が認めている。会議では来年度予算の概算要求に関し、行政や民間が運営する性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」を全国で増設する方針などを内閣府が説明した。
  問題の発言は質疑の中で出た。杉田議員は、相談事業を民間委託ではなく警察が積極的に関与するよう主張し、被害の虚偽申告があるように受け取れる発言をしたという。「魂の殺人」とも言われる性暴力。被害の声を出しづらく、必死の思いで訴えても信じてもらえず孤立する当事者たちがいる
  「うそをつくという言葉は女性差別にとどまらず、苦しむ当事者をさらに傷つけるものだ。通底するのは、被害者に落ち度があったという偏見や、本気で抵抗すれば避けられたはずだという思い込み、いわゆる「レイプ神話」ではないか。

  内閣府の2017年の調査によると、男女約20人に1人が無理やり性交された経験を持ち、そのうち56・1%が誰にも相談していなかった。警察に連絡や相談した人はわずか3・7%だった。社会の無理解が被害者に沈黙を強いてきたのだ。

  杉田議員の言動は、これまでもたびたび問題視されてきた。
  2年前、性的少数者への行政支援を疑問視する論考を月刊誌に寄せ、「彼ら彼女らは子どもをつくらない、つまり『生産性がない』」との持論を展開した。 ジェンダーや「慰安婦」問題に関する研究について、ツイッターで「捏造」などと投稿され名誉を毀損(きそん)されたとして女性研究者4人に昨年提訴された。 性暴力被害を公表したジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗(ひぼう)中傷する投稿に、賛同を示したことで名誉を傷つけられたとして、伊藤さんから先月訴えられている。今回を含めて、杉田議員は取材にきちんと応じていない。記者会見を開いて自らの発言を説明し、疑問に答えるのが政治家として取るべき対応だ。自民党の同僚女性議員はどう感じているのか聞いてみたい。

  性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」の主催者は、謝罪と議員辞職を求める署名活動を始めた。デモを通し被害者が声を上げるようになり、社会にその思いを受け止める機運が出てきたのに後退しかねないからだ。
  発言の端緒となったワンストップ支援センターは、被害者を受け止める「駆け込み寺」の役割を果たすが、人材不足や財政的な課題も残る。被害者を勇気づけ、寄り添った支援の拡充こそが国会議員の仕事だ。


2020.09.03-Yahoo!Japanニュース-https://news.yahoo.co.jp/byline/haradatakayuki/20200903-00196413/
教師による性犯罪をどのように防ぐべきか
(原田隆之 -筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務、エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマ。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題、社会的「事件」に対する科学的な理解。)

教師による性暴力
  教師が児童生徒に対して性暴力を働くという犯罪は、卑劣という言葉では表現しきれないくらいのものがある。
  教師という立場を利用し、児童生徒との関係性や信頼感を逆手に取って、相手の人権や将来にまで残る心の傷のことなどを一顧だにせず、自らの欲望の赴くままに行動することなど、到底許されるものではない。
  こうした事件が続発していることを受けて、文部科学省は教育職員免許法(教免法)の改正を検討している。現行の規定では、わいせつ行為で教員免許を失っても、3年がたてば再取得が可能となるのであるが、いくら何でもそれは甘すぎる。再取得した免許で再び教壇に立ち、再び事件を起こしたというケースもある。
  先日、文科省が検討している改正案は3年の期間を5年に延長しようとするものであるとの報道があった。これに対し、多くの驚きや反発の声が上がっている。
性犯罪の再犯リスク
  私は10年以上にわたって、刑務所や精神科クリニックにおいて、性犯罪者に対する「治療プログラム」を実施している。
  まず、性犯罪の再犯率について犯罪白書などのデータを見てみると、性犯罪全体では5年間の性犯罪再犯率は十数%程度であるが、痴漢、盗撮が最も高く約30%、小児わいせつは約10%である。また、同種犯罪での前科が2回以上ある者に関しては、小児わいせつの再犯率は約85%まで跳ね上がる(ただし、サンプル数は13人と少ない)。犯罪統計には明るみに出ていない「暗数」はつきものなので、実態はもっと多い可能性が大きい。

  したがって、これら繰り返されやすい性犯罪に対しては、刑罰だけでは限界があり、刑罰に加えて治療を実施する必要があるとの考えから、われわれは「治療プログラム」を開発し、実施しているのである。
  よく誤解されるが、それは性犯罪を「病気」であるとみて、罪を軽くしようということが目的ではなく、刑罰に加えて治療を実施することによって、より効果的に再犯を防止することが目的である。
  一般に性犯罪(に限らず一般犯罪も)の再犯リスク要因には、以下の8つがあることが大規模な研究によって見出されている。
  それは、1)犯罪の前歴、2)不良交友、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティ、5)家族の問題、6)学業・仕事上の問題、7)薬物・アルコール使用、8)不健全な余暇活用、の8つであり、これらを総称して「セントラル・エイト」と呼ぶ。
  児童生徒に対して性暴力に及んだ教師の場合、このうち、1)犯罪の前歴、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティを満たしていることは明らかである。1)は言うまでもないが、3)に関しては、規範意識の低さ、信頼関係の悪用、犯罪を容認する態度などが考えられる。
  また、4)に関しては、共感性の欠如、攻撃性、衝動性などがあてはまるだろう。さらに、ほかのリスク要因に関しても、一人ひとりを詳しくアセスメントすることによって、明らかにすることができる。
小児性愛とその治療
  子どもに対する性的欲求を抱くことは、一種の性の逸脱と考えられており、精神障害の1つとして公式の診断マニュアルにも「小児性愛(ペドフィリア)」としてリストアップされている。しかし、それ自体がすぐに犯罪に直結するわけではない。小児性愛傾向のある者であっても、実行するかしないかは大きな違いがあり、実行にまで至る者のほうがはるかに少ない。そして、そちらがより「重症」であると言える。

  だとすると、セントラル・エイトを見ても、1)に挙げたように子どもに対する性犯罪の前歴があるということは、実行にまで至った「重症の小児性愛者」と言うことができる。 加えて、規範意識の欠如、共感性の欠如、衝動性など、そのほかのリスク要因が重なることによって、より危険性が増していくのである。 こうした人々の治療はどのようなことを行うかというと、「認知行動療法」という心理療法が主流である。そこでまず行うことは、再犯に結び付く「引き金」を徹底して避けるということである。
  ストレス、性的欲求不満、イライラなどが「引き金」になる者が多いが、言うまでもなく最大の「引き金」は、子どもとの接触である。現在クリニックで治療中の患者さんにも、学校や公園などを避けたルートで通勤する、児童・生徒の通学時間帯を避けて電車に乗る、などの方法を徹底している。
  ここでは便宜的に「小児性愛」として述べてきたが、それは相手が高校生だろうが、大学生だろうが同じである。同意のない相手に対し、あるいは性的自己決定力がまだ未熟で、十分な同意のできない相手に対して、関係性に付け込んで一方的な性的行為を行うことは、すべて同様の悪質さと心理的問題性(リスク要因)を有していると言える。
  このように、科学的に考えても、子どもに対する性犯罪を犯した「重度の小児性愛者」に、再度教員免許を与えて教壇に立たせるということは、わざわざ「引き金」に近づけることと同じで、きわめて危険であることは間違いない。
職業選択の自由
  もちろん、犯罪を真摯に反省し、二度と行わないと心から誓った者もいるだろう。しかし、これらの行為は、意志の力だけでは制御できないところに留意する必要がある。「引き金」が引かれたら、意志の力をはるかに上回る衝動に突き動かされてしまい、再犯に至るということが多いからだ。
  したがって、いくら反省して更生を誓ったとしても、わざわざ再犯リスクを高めるような選択肢を残すべきではないし、法の改正もその方向で行うべきである。言うまでもなく、それは子どもをみすみす危険に晒すことになるからだ。
  もちろん、人には職業選択の自由があるし、その自由は保障されるべきである。とはいえ、やはりリスクが残っているのであれば、被害者に与える大きなダメージを考慮して、その自由は制限されても仕方がない。どのような免許や職業においても、欠格事由は存在する。
  また、今ここに存在している人の自由を、まだ存在しない将来の被害者を想定して制限するのはおかしいという意見もあるだろう。犯罪の可能性があるということでその自由の制限をすることは、ある種の「保安処分」のような危険な兆候を感じ取る人もいるかもしれない。
  しかし、われわれが今、子どもに対する性犯罪を防止するためにできる最善の方法は、今のところ「再犯の防止」しかないのである。残念ながら、まだ一度も性犯罪に至っていない者を事前に見きわめて、犯行を防止するだけの知恵も技術もない。 だとすれば、こうしたリスクの高い者には再度教員免許を与えないという方法を取るしかないのである。
不当な差別は許されない
  性犯罪の前歴がある者全員を危険視して差別するのはよくないという意見も理解できる。ならば、全員を危険視しないために、性犯罪者の再犯リスクを測定するためのツールを活用して、再犯リスクの大きさを把握するという方法も検討できる。
  これはわれわれの研究グループが日本版を開発した「スタティック99」という質問紙であるが、わずか10項目の質問で、再犯リスクの大きさが判定でき、その予測精度は80%弱である。とはいえ、20%は外してしまうのだ。これは、PCR検査などでもよく指摘される「偽陰性」が出てしまうということだ(再犯をしないと予測したのに、再犯してしまったというケース)。
  したがって、これが現時点での科学の限界である。科学には100%がないのは当然のことであるが、だからと言ってそれを許容し、「1人や2人の被害者が出るのは仕方ない」とは絶対に言えない。とすると、やはり現時点では、性犯罪の前歴のある者はすべて免許の再取得はさせないという方法が、一番合理的な選択である。
  繰り返すがこれは、前歴のある者を色眼鏡で見て差別しているのではなく、その犯罪を実行したというその事実が、本人の心理的問題性と将来の犯罪リスクの大きさの証明となるからであり、5年やそこらで「治る」ようなものでもないからだ。また、仮に改善していたとしても、かつてと同じような状況で「引き金」に近づけることは、再犯リスクを高めるからだ。
  その一方で、本人の更生のためには、彼らを社会から排除するのではなく、社会の中に受け入れて治療や就労支援など、できる限りの支援をすべきである。教員の道は絶たれたとしても、更生の道は他にも数多く残されているはずであるし、そこで「不当な」差別があってはならない。


2020.07.31-iza(産経新聞)-https://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/200731/lif20073114110023-n1.html
見えない性被害…「逆らえない」教員の立場悪用 子供守る制度創設を
(1)
  小学5年の娘を持つ女性は今、苦しみの中にいる。今年に入り、娘が3年の頃、当時担任だった男性教諭から性暴力被害を受けていたことを知ったからだ。
  休み時間や放課後になると、教室で男性教諭に呼ばれ、この教諭の机のそばで下半身を触られていた。卑劣な行為は他の児童たちもいる中で行われていたといい、回数は「数えられない」と娘は説明した。他の児童たちも被害に遭っているのではないか、との訴えもあった。

  男性教諭は年度途中に突然休職(後に懲戒免職)になったが、理由が公表されることはなく、娘の被害を知ったのは同級生の母親からの情報提供だった。女性は「学校側は被害に遭った子供たちがいることを疑いながら保護者への報告や説明を一切せず、個別対応で済ませてきた」と学校側を非難する。
  信じがたいことは他にもあった。学校側の説明では、この男性教諭は娘の担任をする前の年度にも、受け持ったクラスの女児の体を触る不適切な行為があったとして問題視されていた。だが学校側は「指導力のある教員」などと評価しており、翌年度も担当する学年を変えて、担任を続けさせていた。

  「被害当時、娘は自分がされていることの意味が分からず、抵抗することもできなかった。ましてや加害者が担任の先生。言うことに従うのが正しいとされる人からの被害の場合、逆らうのは非常に難しい。教諭はそのことを十分に分かった上で、巧妙にわいせつ行為を重ねていた」。女性は憤りを隠さない。
(2)
  保育の現場でも性暴力被害は深刻だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で今春、長女(5)の通っていた保育所が休業になったという母親の場合、仕事を続けるため、ベビーシッターの男性を自宅に招き入れたのが悲劇の始まりだった。
  男性に依頼したのは計8回。毎回、業務中の長女たちの様子をにこやかに報告してくれた。ところが、仲介業者から突如、「男性は今後、サポートできなくなった」と告げられた。理由は「個人情報」とされ、教えてもらえなかった。

  長女は残念がるだろうと思っていたが、男性が来られなくなったことを伝えると安堵(あんど)した様子を見せた。嫌な予感を覚え、詳しく聞いてみると、公園のトイレなどで下半身を触られていたと打ち明けられた。
  男性は後に強制わいせつ容疑で警察に逮捕されたが、「娘の心の傷はいかばかりか」と母親はおもんぱかる。「大人になるにつれ、自分がされた行為の意味が分かってくる。思春期になったときに精神的な問題を抱えたらと思うと恐ろしい気持ちでいっぱい」と苦しい胸の内を明かした。

  保育・教育現場で発生する性犯罪は、表面化しづらい。特に幼い子供の場合、周囲にうまく状況を説明できなかったり、わいせつ行為を行う大人から“口封じ”をされたりして事態の発覚が遅れ、被害が拡大する恐れも指摘される。
(3)
  加害者への罰則の軽さも、性犯罪が減らない一因とされる。子供へのわいせつ行為をした教員は懲戒免職となれば免許を失うが、3年後には再取得が可能。保育士は禁錮以上の刑を受けた場合、都道府県が登録を取り消すが、刑の終了から2年経過すれば再登録できる。

  ベビーシッターは法的な資格がなく、研修受講などの要件を満たせば、都道府県への届け出で仕事を得られる。派遣業者の中には採用時、シッター希望者に賞罰の有無の記入を求めたり、面談を複数人で行ったりするなど、性犯罪のリスク低減に努める動きもあるが、未然防止の対策には限界もある。
  こうした中、子育て支援に取り組むNPO法人「フローレンス」(東京)などは、英国の制度を参考に、子供とかかわる仕事に就く際は公的機関が発行した「無犯罪証明書」の提出を義務付ける制度の創設を行政側に求めている。

  同団体の駒崎弘樹代表理事は「国内では子供たちのための保育・教育現場があろうことか、性犯罪の温床になっている」と指摘。「性犯罪歴のある人を保育・教育現場に立ち入らせない仕組みを整えるはじめの一歩として、無犯罪証明書を取得できる仕組みの創設を求めたい」と強調する。(三宅陽子)

  教師や保育関係者の立場を悪用した子供へのわいせつ行為が後を絶たず、保護者らは「子供たちの安全を守れない」と悲痛な声を上げる。しばらく後で被害に気づき、精神的なダメージを引きずるケースも少なくない。表面化しづらい「見えない性被害」の脅威にさらされた保育・教育現場の実態と課題を探る。


2020.7.21-毎日新聞-https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200701/pol/00m/010/002000c
性犯罪・性暴力の被害者が勇気を持ってあげた声を大切に
上川陽子・元法相

  2017年7月に改正刑法が施行され、これまで被害者を女性に限っていた「強姦(ごうかん)罪」が性別を問わない「強制性交等罪」となるなど大幅な改正が行われた。声をあげることさえ難しい性犯罪・性暴力の被害者があきらめることなく声をあげてきた活動のたまものだったと思う。一方で当時からさらなる改正を求める意見があり、施行後3年をめどに政府に検討を求める付則が設けられている。

  私が会長を務める自民党の司法制度調査会も継続的にこの問題に取り組んできて、施行後3年となる今年7月を前に提言をまとめ、政府の強化方針に反映させた。私は、被害者の方々にお会いした時に「あるべき姿まで一気にいくことは難しいが、絶対に諦めず、一つ一つ段階を踏んで成し遂げていきましょう」とお話をさせていただき、私自身もそういう思いでやってきた。
  性暴力に抗議するフラワーデモが広がり、勇気を持って声をあげる被害者の方が前に出てきた。社会全体も大きく変わってきた。親から子への長期的な性的虐待があることや、障がいを持つ方が施設内で被害に遭うというケースがあることも広く知られるようになり、問題の根深さや深刻さが認識されてきたと感じている。
被害者の立場に立って
  性犯罪に限ったことではないが、社会的に弱い立場に置かれている人が被害に遭う実態がある。記憶が十分ではない、あるいは供述をうまくできない場合がある。時間がたって供述内容が変わったりすると結果的に相手を処罰できない場合がある。最近は被害に遭った方が警察に行く前にネットで調べて「警察で嫌な思いをした」とか「解決できなかった」という書き込みを見て、警察に行くこと自体を諦めてしまうというようなことも起きていると聞く。「ドアがいつも閉まっている」というイメージがあっては問題である。
  提言に「被害届の即時受理の徹底」という項目を入れたのはこのためだ。警察は大きな組織であるが、窓口で被害者に向き合う職員一人一人がどのように対応できるかが重要である。対応した人によって被害届が受理されたり、されなかったりということがあってはならない。
  もう一つ大切なのは「ワンストップ支援センター」の充実と関係機関との連携強化だ。性暴力の被害を受けた女性のうち6割が誰にも相談しなかったという調査がある。また性暴力の加害者の7、8割は顔見知りだと言われる。警察に被害を申告することがなかなかできず、時間がたってしまう。
  緊急避妊や性感染症への対応、証拠保全などが必要だが、突然被害に遭った方にしてみれば、とてもそこまで考える余裕がない。だから、ワンストップ支援センターは被害を受けたその時からすぐに相談できる場所として、体の面でも精神的な面でも被害者をサポートできる存在でなければならない。
  そのためには普段からその存在を知っていてもらわなければならないし、病院を含めた必要な機関につなぐことのできる能力を持たなければならない。性被害は平日も休日も昼も夜も、時間を選ばない。電話やSNSも含めていつでも相談を受けられるようにすることも大切だ。
性暴力の当事者にならないための教育
  提言には「生命の安全教育」ということも盛り込んだ。自分を尊重すること、相手を尊重することについて理解が深まれば、加害者にも被害者にもならない。そして傍観者にもならない。自分の体を守る力を日常的に蓄えていくためには、交通安全教室で学ぶように、小さい時からわかりやすく学ぶ必要がある。水着で隠すようなところは他人に見せない、触らせない、というように具体的に教えていかなければならない。
  性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟(ワンツー議連)のプロジェクトチームで5月に大阪市立生野南小学校の取り組みについてオンラインで話を伺った。取り組んでこられた方の話を聞くと、約5年をかけて、教師、保護者の意識を変えてきたという。我々もこの問題には粘り強く取り組んでいきたい。
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  再犯防止のためのGPS機器装着については人権上の問題があるという指摘もある。英国の刑務所でGPS機器を足につけて帰宅させる実例を見たが、かなり大きな足かせのようなもので、これをそのまま日本でやるのは厳しいという感想も持った。一方で、性犯罪の繰り返しを防ぐため、状況によって段階的に対応することもできるのではないかと考えている。例えば、有罪判決が確定した人の執行猶予期間中や、仮釈放中の保護観察の時期など、対象や段階を限定しつつ、慎重ながらもしっかり検討していく必要がある。
  強制性交等罪の成立要件に「被害者の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」(暴行・脅迫要件)が必要とされていることについては2017年の刑法改正の際にも、撤廃すべきという意見があり、議論がなされた。
  私は単にこの要件だけをなくせばよいということではなく、被害者保護のための仕組みを全体的に検討する必要があると考えている。法務省の有識者検討会で議論が始まっていて、性被害当事者の山本潤さんも委員として参加している。司法制度調査会でも法務省の議論も踏まえて検討していきたい。
被害者の声を形に
  性犯罪・性暴力は表に出にくい。だから、潜在化していた被害者の声が出てきた今が極めて大事なタイミングだ。このタイミングを逃せば、その声が形にならないまま宙に浮いてしまう。
  次なる被害者を生まないため、勇気ある被害者の声をいかに生かすかに粘り強く取り組んでいきたい。被害者も、支援する立場の方も、官も民もみんな一緒になって、目の前にあるこの課題に真正面から取り組んでいくことが社会を変えていくことにつながる。


2019.11.14-しんぶん 赤旗-https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-11-04/2019110413_01_1.html
DV・性暴力なくせ(被害当事者らパレード)
東京
  配偶者・恋人からの暴力(DV)や性暴力、子どものころの虐待の被害当事者らが3日、東京都内でパレード「第11回あるこうよ むらさきロード2019」(同実行委員会主催)を行い、約200人が参加しました。女性への暴力根絶のシンボルカラー・紫の衣装や仮面でカラフルに仮装した当事者らが、「暴力のない社会をつくろう」とアピールしました。

  オープニングイベントで波多野律子実行委員長が「被害者のうめきや願いが聞き取られていない。声を届けていこう」とあいさつ。全国女性シェルターネット元事務局長の遠藤智子さんは「被害当事者が安全に生きられる社会へ」とDV防止法改正などを求めました。お茶の水女子大学の戒能民江名誉教授も、同防止法や性刑法の改正、性暴力被害者支援法の必要性を指摘し、「女の自由と平等を守る社会へ、いまが正念場です」と訴えました。
  超党派の国会議員が出席。日本共産党の吉良よし子参院議員が、これら法整備は「まったなしの課題。超党派で取り組みたい」と決意表明しました。
  参加者は「なくそう性暴力 あなたは悪くない」などの旗を掲げて行進。初めて参加した性暴力被害当事者の女性(20代後半)は、「もうこの問題を後回しにしてほしくない。声を上げることが人々に響き、社会が変わってくれれば」と語っていました。


2019.6.27-毎日新聞-https://mainichi.jp/articles/20190627/k00/00m/040/154000c
無罪判決の波紋~性と司法・私の考え
立場の強い者による性暴力を罰する別罪が必要 上谷さくら弁護士
(1968年生まれ。青山学院大法学部卒。毎日新聞記者を経て2007年弁護士登録。保護司。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長を務める。)

  実の娘への性的虐待を認定しながら父親を無罪とし、議論を呼んだ名古屋地裁岡崎支部の判決。性暴力の被害者支援に携わる上谷さくら弁護士は、「長年にわたり性的虐待を受けてきた人への想像力が欠けている」と判決を批判し、裁判官への研修の強化や、地位や関係性を利用した性暴力を処罰する罪の創設を訴える。【聞き手・塩田彩/統合デジタル取材センター】

虐待被害者の特徴、裁判官は理解していたのか
  相次いだ無罪判決を読み、いくつもの疑問が浮かびました。長年の性的虐待が認定されたにもかかわらず、被害者である長女が「抗拒不能(抵抗できない状態)だったとはいえない」として準強制性交等罪(旧準強姦罪)に問われた父親が無罪になった名古屋地裁岡崎支部の判決も、疑問に感じる事実認定が複数あります。
  まず、公訴事実である性行為の直前に加えられた「こめかみのあたりを数回拳で殴られ、太ももやふくらはぎを蹴られた上、背中の中心付近を足の裏で2、3回踏みつけた」暴力についてです。判決では強度の恐怖心を抱かせるような強度の暴行であったとは言い難い」と指摘していますが、私は、相当激しい暴行だと思います。被害者はそれ以前の暴行について「頻度としては多くない」などと供述していますが、長年虐待を受けた被害者が暴力行為を正面から認めることは非常につらく、ある程度慣らされてしまう面がある。虐待のそうした特徴を、裁判官は理解していたのでしょうか。

必死にもがいたら……「親に反抗できる状況だった」
  また、性的虐待が積み重なった結果、抵抗しても無駄だという気持ちになり、抵抗できない状況が作り出されていったと指摘する精神科医の診断を、判決は「非常に高い信用性がある」と言いながら、抗拒不能の判断と完全に切り離した点も甚だ疑問です。

  14歳の頃から実の父親から性的虐待を受け、時々抵抗を試みると収まるが、少し気を緩めるとまたやってくる。ああやっぱり終われないのかという絶望感、無力感。判決はそうした長女の心理をすくい上げず、「抵抗できたときもあった」「だから今回も抵抗しようと思えばできた状態で、抗拒不能とは言えない」と判断しています。さらに、長女が親の了解を得ずに大学進学を決めたり、家事を十分に手伝わなかったりしたことを捉えて、親に反抗できる状況だったとしています。
  でも、本当にそうでしょうか。父親から長年性行為を強要され、母親との関係も悪い。金銭的にも裕福ではない。そんな中で、彼女は自分の人生をなんとかしなければと必死にもがいていたように私には読めます。それを捉えて、抵抗できたという事実認定に使うのはおかしい。そのような状況に置かれた人への想像力が決定的に欠けていると思います。
  また、抗拒不能の判断について、判決は「被告人が被害者の人格を完全に支配し、被告人に服従・盲従せざるを得ないような強い支配関係にあったとまでは認めがたい」と述べています。しかしそれほど強い支配・従属関係ではなくとも、抗拒不能を認定した判例は過去にも複数あります。
暴行・脅迫要件の撤廃は難しい
  強制性交等罪などの成立要件である抗拒不能や暴行・脅迫の認定は、裁判官によって幅があります。ただ、裁判官の中でも、被害者の立場を理解しようと努める人は増えていると感じます。だからこそ、そうではない裁判官が目立つのかもしれません。
  認定のばらつきをなくすためには、裁判官の研修を充実させていくしかないと思います。法律を変えても、裁判官の事実認定がおかしければ、今回のような判決がまた出てくるからです。今は短期間の座学のみですが、例えば性暴力被害者のワンストップ支援センターに赴き、ひっきりなしに電話がかかってくる様子を見る。被害者に直接話を聞く。そのくらいはやってほしいと思います。
  女性裁判官を増やすべきだという意見もありますが、被害者に厳しい女性の警察官や検事も見てきました。私は、性別は関係ないと思っています。
  刑法改正については賛成ですが、議論になっている暴行・脅迫要件の撤廃は、難しいと考えます。処罰範囲が広がりすぎ、罪に問える範囲が不明瞭になるからです。

  2017年の刑法改正では、強制性交等罪(旧強姦罪)の法定刑の下限が3年から5年に引き上げられました。要件を撤廃すれば、この下限を再び引き下げるべきだという議論も起こりかねません。
  ただ、同意のない性交について、処罰は必要だと思います。被害者や支援者がそれを訴えることは意義のあることです。運動を進めていくことで、世の中の意識が変わっていけばいい。性行為は同意あってこそ、のものです。被害者に対する偏見がまだまだ強い中、広く世論を喚起することは非常に重要だと思います。
関係性を利用した性暴力の処罰化を
  現在の刑法で救われないケースはたくさんあります。典型例は、上司や取引先など仕事上の立場が上の相手から性被害を受けるケースです。30~40代で役職を与えられている人も被害に遭っています。
  例えば、仕事の飲み会帰りに上司に「打ち合わせしよう」と言われ、ホテルのロビーで実際に仕事の話をする。その後、「もう少し込み入った話をしよう」と部屋に誘われる。「企業機密に関する話だろう」「まさか性的なことがあるはずない」とついていったところで被害に遭う。周りに訴えても、「ただの不倫じゃないか」「キャリアウーマンのあなたが断れないわけがない」と言われてしまう。

  離婚した実父から性的被害を受けたケースもありました。改正刑法では親から子への性暴力を処罰する「監護者性交等罪」が新設されましたが、離婚で別居している場合は当てはまらない。でも、同居の母親に何かあったら頼れるのは父親だけ。その父親に嫌われてはいけないという意識が子供にはある。
  他にも、就活セクハラや医者による患者への性暴力も起きています。共通して言えるのは、立場の強い者が弱い者に加害するという図式です。だから私は、刑法を改正して「関係性に着目した罪」を新設すべきではないかと考えています。

  海外では、業務・雇用・その他の関係によって、監督保護を受ける人に対して姦淫(かんいん)した場合の罪や、被害者が反対意思を形成したり表明したりすることができない状況を利用した場合の罪があります。日本でも、暴行・脅迫を用いたレイプを処罰する強制性交等罪を残しつつ、関係性の中の性被害を救えるよう、暴行・脅迫要件などを緩和した別罪の創設を検討すべきではないでしょうか。
被害直後から専門家が支援を
  性犯罪は、被害者支援の視点から他にも多くの課題があります。まず起訴のハードルが非常に高いこと。私が相談を受けた案件の半分も起訴できないというのが実感です。起訴されなかった事件の被害者は、司法や行政に根強い不信感を抱き、被害回復にも支障をきたしてしまいます。
  一方で、無罪が増えてもいいから起訴率を上げるということはすべきではありません。冤罪(えんざい)防止はもちろん、被害者にも影響が大きいからです。否認事件の場合、証拠の整理や公判に時間がかかります。被害者は必死に法廷で嫌なことを証言したのに、無罪になったときの衝撃は計り知れない。「あなたは被害者ではない」と国が認定してしまうわけですから。
  被害者への支援は、公判段階からではなく、被害直後から、遅くとも警察署に被害届を出すところから専門家がフォローすべきです。事情聴取もすべて被害の再体験です。それがどれほど被害者にとって負担か。裁判になってもならなくても、できるだけ早く被害者を手厚く支援することが大切だと思います。


2016.07.18-西日本新聞-https://www.nishinippon.co.jp/item/n/259678/
性暴力の実相・第4部(1)信じた教師が… 立場弱く拒絶できず
(1)
  女子高校生のヨウコ(仮名)が性暴力の被害を受けたのは、九州の地方都市にある高校の寮。相手は、生徒を守るはずの男性教諭だった。
  勉強に専念するために寮に入った。宿直当番で定期的に泊まり込む男性教諭は、悩みを相談するほどの仲。クラス担任でも、自分の部活動の指導者でもなかったが、スポーツで日焼けした壮年の男は面白く、友達のように話しやすかった。
  ある晩、寮生の女子2人と宿直室に遊びに行ったときのこと。眠くなって友人と横になると、周りに分からないように教諭から体を触られた。どうしていいか分からず、寝たふりを続けた。
  いったん部屋に戻ったものの、「なぜそんなことをしたのか」聞くため、1人で宿直室に戻った。信用していた教諭からいきなり抱きつかれ、キスされた
  「おまえのことが気になってたよ」「男はこうしたら喜ぶんだぞ」。体が硬直して払いのけられず、わいせつな行為をされた。
  以来、毎週のように、深夜に部屋を訪ねられ、耳元でこう言われた。「宿直室に来なさい」
(2)
「2人だけの秘密だぞ」
  ヨウコには彼氏がおり、教諭に対する恋愛感情はなかった。それでも被害を言い出せなかったという。
  恋人に対する罪悪感から、呼び出しに応じなかったとき。「何で来なかったんだ」と翌朝とがめられると、反射的に「ごめんなさい」と謝っていた。「2人だけの秘密だぞ」。この言葉にも縛られた。
  学校推薦での大学進学を目指しており、表沙汰になれば内申書に影響するのではないかという不安もあった。「(最初に)自分で宿直室まで行っているから『あんたも悪い』『誘ったんでしょ』と責められると思っていた。家族にも絶対に知られたくなかった」
  性暴力の被害が続くうちに、頭がぼーっとし、吐き気が止まらなくなった。何度も授業中に保健室に運ばれたが、養護教諭には「具合が悪い」と言うのが精いっぱい。苦しみが澱(おり)のようにたまっていった。
  教諭の要求はエスカレートし、「校舎内でもしような」などと言われるように。異変に気付いた寮の友人に諭され、「やめてください」と言えたのは、半年後のことだった。
(3)
「結局、被害は公にならず」
  ヨウコは今、30代になった。「『おまえも興味あるだろう』って、被害者意識を持たせないように上手にやられたと思う」と当時を振り返る。先生と生徒という関係の中で、正常な判断ができなかったのかもしれない。「泣きながら無理やりされたわけじゃないから、先生が100パーセント悪いと思えなかった」。結局、被害は公にならなかった。
   「幼少時から教師の言うことを聞くように刷り込まれた子どもたちは簡単に拒絶できない」。そう指摘するのは、教師による子どもへの性被害に詳しい中京大法科大学院の柳本祐加子教授(子どもの権利論)。「力関係を背景に、成長段階で芽生える自然な性への関心を利用されるケースも目立つ」と話す。
   男性教諭は勤務を続け、管理職に就いている。西日本新聞の取材に対しその行為を認め、「申し訳ない」と話した。

「性暴力の実相」第4部では、学校現場での被害の実態を追い、対策を考える
 ■教師による性暴力の影響
  学校での性暴力に詳しい大妻女子大人間生活文化研究所の徳永恭子研究員によると、教師からの性被害は児童生徒の心身を深く傷つけるだけでなく、大人への不信感を植え付ける。学校に対する安全意識が崩れて不登校になる場合も多い。「子どもたちはよく理解できないまま自分を責め、混乱の中で被害が長期化する傾向にある」という。2011年に東京都の教職員277人に行った調査では、「教え子とメールや携帯で性的な話題をすることはセクハラ」と回答したのは7割にとどまった。

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●メール syakai@nishinippon.co.jp
=2016/07/18付 西日本新聞朝刊=








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