陰圧と陽圧室の検証



2022.01.03-Yakult co.jp-https://www.yakult.co.jp/healthist/220/img/pdf/p02_07.pdf
「ヒトとウイルス」共生と 闘いの物語

  風疹や鳥インフルエンザなど、感染症、特にウイルス感染症が大きな問題となっている。知らず知らずに 感染し、いつのまにか広がって大きな流行を生むウイルス感染はやはり怖い。しかしウイルスだけでなく、 細菌、感染性タンパク粒子などによるいわゆる感染症は広く生物界に存在しており、人間は感染症と闘い ながら歴史を刻んできた。しかし一方で、人とウイルスはお互いに深く関わりあいながら暮らしてきたの も事実である。

  鳥インフルエンザなど、世界の感染症がニュースに 上るためか、特に今、感染症の恐怖が広がっていると 感じる人も多いかもしれませんが、人類と感染症は、 非常に長いつきあいです。 歴史的な出来事として記録されているだけでも、14 世紀に流行したペスト、15世紀には梅毒、17 ~ 18 世紀にかけて天然痘、近代でも結核やコレラなどさま ざまな感染症と人類は闘ってきました

  人類最初の麻疹の伝播を記した。紀元前 3000年にチグリス・ユーフラテス川領域のシュメー ルというところで麻疹の流行があったという記録があ り、その後麻疹は世界に広がっていますが、シュメー ルで起こってから、日本で記載があるのは平安時代の 紀元後の1000年くらい。日本まで到達するのに実に 4000年くらいかかっていることになります。
   旧約聖書にある「感染症」の記述 感染症に関する記述というのは、旧約聖書のレビ記 13章にすでに登場しています。「もし、皮膚に湿疹、 斑点、疱疹が生じて、皮膚病の疑いがある場合、その 人を祭司のところへ連れて行く。祭司は、患者を施設 に留め置く」。
  これは麻疹についてかもしれませんが、 つまり隔離しなさい、と言っているのです。予言者マ ホメットの言葉にも「汝ら、もしある国に疫病が存在 していると知ったならばそこへ行ってはならぬ。だが、 もし疫病が汝らの今のいる国に発生したならば、そこ を離れてはならぬ。疫病で斃れるものは殉教者である」 とあります。感染症という言葉はありませんが、こう いう症状を呈したら隔離する、あるいは他の人に感染 させてはいけないということが、旧約聖書の時代にす でに行われていたということです。 日本でも江戸時代には麻疹は「命定め」、天然痘は「見目定め」と言われていました。天然痘はあばたと言っ て特有の痕が残りますが、麻疹の方が、死者が多く恐 れられていたようです。この他、安政コレラと言って 1858年に日本でコレラが大流行したことがあります。
  ペリーの艦隊が持ち込んだと言われていますが、この 時、江戸の死者は数万人。日本でもコレラが大流行し た時期があったのです。 感染症の正体が分からなかった時代、疫病は天から 降ってくるものでした。
  インフルエンザの語源は「in uence」 と同じで、「in」=中に、「 ow」=流れ込んできたもの という意味です。インフルエンザウイルスは、1929 年にブタで、1933年にはヒトで発見されましたが、 その昔は、星の位置が私たちに影響を与えると思われ ていたのです。 感染症が歴史を変えたということも多くあります。 15世紀の大航海時代、スペインのエルナン・コルテ スなどによるアステカの征服は、二国間の軍事力の差が原因と言われています が、実はスペイン側が持 ち込んだ天然痘をはじめ、 チフス、インフルエンザ、 麻疹などといった感染症 に免疫を持たないアステ カの人々が感染し、兵士 が倒れていったことも大 きく影響しています。 また1755年からのフ レンチインディアン戦争 は、実質、フランスとイ ギリスの戦いでしたが、 この時、イギリスは、フランスと同盟を結んでいたネ イティブアメリカンに毛布を送るなどして、厚意を見 せていました。
  しかし実は、この毛布は天然痘のウイ ルスをすりこんだもので、やはり免疫を持たないネイ ティブアメリカンたちは、次々に亡くなっていったと 言います。これは世界で最初の「バイオテロ」と言える でしょう。 新興・再興感染症はなぜ発生するのか 現在は、世界中に新たな感染症がたくさん出てきて おり、人々も感染症に対して漠然とした恐れを抱いて いる状況だと思います。

  米国医学研究所(Institute of Medicine)が、1992年に「Emerging Infections: Microbial reats to Health in the United States」にて「新興・再興感染症(Emerging and Re-emerging Infectious Diseases)」という言葉を初 めて使用しました。その後の報告書ではこれに関わ る13の要因をあげて議論しています。そのうち「微生 物は自分の子孫を残したいがために環境などに適応し 変化する」という一つをのぞく12項目はすべて人間に 要因があるのです。
  「きれい好き」が感染症を増加させる まず、先進国の人間は特に「きれい好き」で、衛生状 態も非常に良くなっています。A型肝炎は子どもの頃 に罹ると無症状か非常に軽症で終わります。現在70 歳以上では8割くらいの方が抗体を持っていますが、 60代以下ではほとんど抗体を持っていません。下水 道もなく衛生状態の悪い状況では、小児期に知らず知 らずのうちにA型肝炎に感染して免疫を持つように なったのだろうと思われます。

  現在のように衛生状態 が良くなって抗体を持たなくなり、ヒトの感受性がど んどん高くなってきたことは感染症が増加する原因の 一つと考えられます。 また、地球温暖化の影響が疑われています。フラン ス南部でチクングニヤが出るなど、これまで見られな かった感染症が温帯地域で発生するようになっていま す。
  開発のために、それまで人間が立ち入らなかった 熱帯雨林のような場所にも入っていき、生態系を変えてしまうこともあります。エボラ出血熱の自然宿主は コウモリだとされていますが、もともと熱帯雨林の中 で静かに維持されていたものが、ヒトという本来の宿 主以外に感染したものと思われます。ヒトにおいては 非常に重症になりますが、基本的には接触感染のため、 感染はあまり広がらなかったという側面もあります。
  インフルエンザウイルスの自然宿主は水禽類、特に カモ類ですが、カモではウイルスは腸管に存在しカモ 自体に症状は出ません。ウイルスは宿主を殺してし まっては、自身も生きられませんので、効率よく伝播 することによって子孫を残していかねばなりません。 ところが人間が文明を作って以来、食料生産のために 例えばブロイラー飼育のような方法でニワトリを1カ 所でたくさん飼うようになります。同じ種がこれだけ 集まるというのは自然界ではあまりないのですが、そ ういったところに鳥インフルエンザウイルスが入った とします。感染したニワトリの体内で増殖するときに さまざまな変種ウイルスが出現しますが、この中には 増殖の速いものも遅いものもいて、出てきたときに近 くに別のニワトリがいればそれに感染することができ、 このウイルスは生き残っていくわけです。増殖の速い 種というのは宿主への影響力も大きく、一般的には病 原性も強いと考えられます。近くに宿主がいない時代 には、病原性の強いウイルスによって宿主は死んでし まい、ウイルスも宿主がいなくなればそこで死滅して しまうものでした。

  ところが、ブロイラー飼育では環境はまったく異な ります。すぐ隣に同じ種がいるのですから、宿主が死 んだところで、簡単に感染することができます。こう して文明後は、むしろ増殖が速く、病原性の強いウイ ルスが選択される環境が人類によって作られてきまし た。
  SARSなど、もともとはごく一般的な鼻風邪を引 き起こすだけのコロナウイルスでしたが、おそらくあ る地域で感染を繰り返しているうちに突然変異によっ て、致死率が10%にも上る「SARSコロナウイルス」に なってしまったのです。 また抗生物質や抗ウイルス薬など、新しい薬剤を開 発しては大量に投与するといったことを繰り返して、 薬剤耐性を持つウイルスや細菌がどんどん生まれる土 壌を作っています。

  一方で、途上国では人口が爆発的に増加している中 では開発を続けざるを得ず、食料の確保も重要です。 インドネシアで鳥インフルエンザが流行した際、ニワ トリを殺処分するか、ワクチンで対処するか、判断が 分かれました。結局インドネシア政府は、感染したニ ワトリだけを処分し、ワクチンで対処することにした ため、結果的に感染が広がってしまったという経緯が あります。
  しかしこの時、もしもニワトリをすべて処 分したら、インドネシアの国民は飢えてしまっただろ うと言われています。感染症の対応は、政治的、経済 的な側面が絡んだ複雑な問題なのです。 まして撲滅された天然痘ウイルスをバイオテロに使 おうなどと考える人間も出てくるなど、つまりは新 興・再興感染症の拡大は、そのほとんどが人間に起因 するというのです。
  1967年、アメリカSurgeon General(公衆衛生総監) のウィリアム・スチュワートが“e time has come to close the book on infectious diseases.”「感染症の教科 書を閉じる時が来た」と議会で宣言しました。ワクチ ンや治療薬の開発によって多くの感染症が克服され、 日本でも肺結核や気管支炎といった感染症が死因の約 半数を占めていた時代から、がんなどに移行した頃で もありました。
  当時世界中で感染症対策の予算が削ら れることになったのですが、現実にはその闘いはまだ 終わっていなかったと言えるのです。ウイルスにせよ 細菌にせよ、ヒトと共に生きているのですから、人間の生活様式が変化すれば、それに従って変化するはず で、今はそれが顕著に起きている状況だと言えます。
  では新興・再興感染症の前で、人間は為す術がない のかと言えば、実際に2002年に発生したSARSは、 封じ込めることに成功し、ウイルスは研究機関の冷凍 庫に保管されているもののみです。 SARSコロナウイルスは、先述したように、元は鼻 風邪を起こすようなコロナウイルスだったと考えられ ますが、変異により強力になったものです。最初に発 生した時の社会の不安は非常に大きく、パニックにな りましたが、人類にとって幸いだったのはその症状で す。
  インフルエンザは絶対に鎮圧できない SARSコロナウイルスはまず喉で増殖して初期症状 を発現し、それが肺にわたって増殖すると、2週目に 非常に重症になるのです。ところが1週目は、増殖効 率が低く、そのためウイルスが外に出る量も比較的少 ないので、その時点では感染する確率も高くないので す。
  しかしいったん肺にウイルスが広がると、重篤な 肺炎を起こします。こうなるとウイルスの増殖も多く、 しかも咳がひどくなるので、感染が広まるという経過 を辿ります。これがSARSのアウトブレイクです。つ まり、熱が出た1週目に素早く隔離してしまえば、そ れ以上の拡大を防げたのです。SARSはこうして鎮圧 することができました。
  この経験があって、新型インフルエンザ発生時にも 隔離して鎮圧しようというプロジェクトが立ち上がっ たことがありましたが、これはまったく意味がありま せんでした。インフルエンザは絶対に鎮圧できません。 症状の経過が異なり、発熱する前から感染性があるため、熱が出たからと隔離しても、時すでに遅しです。
  一口にウイルス性の感染症と言っても対応は千差万別 ということです。 中世にペストが猛威を振るったことがあります。ア ジアとヨーロッパにおいて交易が盛んになった頃、ノ ミやネズミといった媒介動物の移動によって持ち込ま れたとされ、1347年にボスフォラス海峡を渡ってか ら10年ほどであっという間にヨーロッパ全土に広 がっています。しかしこの時、領土の周りに城壁を作り、外からの侵入を防い で感染率を低く抑えたと いう地域があります。

  あるいは感染症の中に は、隔離せずともある人 たちには感染しないとい うものがあります。髄膜 炎菌性髄膜炎という感染 症は、日本では年間20 人以下程度しか罹患のな い感染症ですが、欧米で は数百人単位で発生して います。
  2000年、イスラム教 徒がサウジアラビアの メッカに巡礼して、そこ でW-135という血清型 の髄膜炎菌に感染し、そ れぞれ自分の国に帰って 髄膜炎を発症するといっ た出来事がありました。 そこでこの人たちを対象に行われた研究があります。 このW-135という菌はもともと鼻に保菌されるので すが、メッカに巡礼に行く前の保菌率は1%以下だっ たのに対して、帰国時には20%の人が保菌者になっ ていました。次にその人の家族を調べてみると、すで に10%の人に感染していました。これも、人の移動 によって感染が世界に拡大する顕著な例です。この疾 患は、アメリカでは大学の寮でアウトブレイクが起き ることがあるので、この年齢層にワクチン接種を勧奨 しています。
  ところが、欧米の人の保菌率が5 ~ 20%なのに対 して、日本人の保菌率は1%以下のままです。この菌 は世界中に存在し、なぜ日本人の感染率がこんなに低 いのか理由は分かっていませんが、感染症において非 常に不思議な現象です。
  ノロウイルスは血液型物質がレセプターに またよく知られているノロウイルスは、血液型物質 がレセプターになっています。この血液型物質が、分 泌型、非分泌型といって体液中に分泌される人とされ ない人がいます。つまり非分泌型の人は唾液では血液 型物質が検出されません。ということは、腸管内にも 血液型物質が分泌されないので、ノロウイルスレセプ ターがなく、感染しません。

  皆と牡蠣を食べて一人だ けあたらなかったなどということがあると思いますが、 それはその人が非分泌型だからなのです。 こうした病原体に対する反応性の違いは、おそらく 多くの感染症で見られるもので、例えばインフルエン ザに罹って脳症になってしまう人とならない人がいる のも、遺伝的なレセプターの反応性の違いが関連して いるのではないかと考えられています。
  H5N1は、基本的にトリからヒトに感染するもの ですが、相当数のヒト─ヒト感染も起きていました。 しかしヒト-ヒト感染においては血縁関係がある場合 のみ感染していて、例えば家族4人の場合、父親が感 染すると、子どもには感染するものの母親には感染し ないという報告がいくつかあって、遺伝的な要因では ないかとされています。
  がんで遺伝子の影響が解明さ れたように、感染症においても今後、遺伝子との関連 研究が進むのではないかと思われます。 感染症による死者は、いろいろな戦争と比較しても 多く、例えば1918年に大流行したスペイン風邪による 死者は、第一次世界大戦よりもはるかに多かったとさ れており、確かに数字だけを見れば脅威ですが、それ をもって感染症をむやみに恐れるべきではありません。

  中世ヨーロッパにおいてペストが流行した時は、ユ ダヤ人の虐殺が起きるなどありましたし、現代の日本 でも、感染者を出した大阪の学校にいたずら電話が殺 到するなど、感染症にさらされた時の人々は得体の知 れない相手に対して恐怖感を抱くものです。感染症で たくさんの人が亡くなった時は、最初は原因が分から なかったり、知らないうちに感染してしまったり、あ るいは感染の経路が分からなかったりといったことで、 漠然とした不安、恐怖を持つのだろうと思います。
  SARSが発生した時、WHOはSARSという病気と、 SARSに対する恐れの二つに対して闘わねばならな かったと言っています。
  当時WHOは「Knowledge dispels fear(知識は恐怖を凌駕する)」と宣伝し、人々 の恐怖を取り除こうと懸命でした。 インフルエンザは、罹りやすく、また高齢者や持病 のある人などで重症化しやすいという場合があります が、全体で見れば亡くなるリスクは高くありません。
  また、H7N9などは、感染すると確かに致死率は高い のですが、日本にいて感染することは、0%とは言い ませんが、まずありません。英語の「risk」は危険度を 示す概念ですが、日本人は概して、「安全」か「危険」か という二つの選択肢で考える傾向にあり、そのためパ ニックに陥りやすいということがあるように思います。
   対処法は「相手をよく知る」こと 専門家の立場からすれば、感染症には致死率の高い ものから低いものまで、常に人間とともにあり、そこ から逃れることは絶対にできませんが、「相手を知る」 ことで漠然とした恐怖ではなく、冷静に判断すること ができると思います。
   鳥インフルエンザは、最近になって多くの人に知ら れるようになりましたが、昔からある感染症です。一 定範囲で感染が拡大することはあっても、トリと濃厚に接触しなければヒトに感染することはありませんし、 トリの間で感染が広がった時に適切な対策を取ればい いのです。
  ノロウイルスなら、次亜塩素酸ナトリウム によって消毒ができますし、エボラ出血熱なら防護服 を着れば怖くありません。 また、麻疹が感染症かどうかさえ分からず、隔離す ることで災禍を逃れていた時代ならいざ知らず、麻疹 は空気感染する、インフルエンザは飛沫感染する、さ らに服についても 1時間もすればウイルスは死んでし まうということも分かっている現代、むやみに怖がる ことはありません。

  最近では、マーズコロナ(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus;MERS-Co V)、要するに中東呼吸器症候群コロナウイルスとい う意味ですが、これも先のSARSと類似の経過を辿り ますから、自ずと対処法は分かります。
  天然痘は、ワクチンができ、撲滅宣言が出されるま で200年かかりました。しかしSARSは数年でその宣 言をしています。確かに歴史的には大量の死者が出て いた感染症が多くありますが、医学が進歩した現在に おいては、たとえ新しい感染症が生まれたとしても、 早々にワクチンや治療薬が開発されるはずです。
  ただし、撲滅できるもの、長くつきあっていくもの、 という区別はあります。天然痘は、防御免疫のできる ワクチンですから、ワクチンを接種した人は感染せず そこで伝播が止まります。しかし、インフルエンザワ クチンは、血中にIgG(免疫グロブリンG)ができて、 それが咽頭粘液などに滲み出し、ウイルスと結合する ので感染を完全に防御することはできません。
  インフ ルエンザは特に、野生のカモの多くが保菌しており、 これを全部処分することはできませんから、根絶とい う発想自体、あり得ません。 どちらにしても、今、感染症で全人口の何分の一か が亡くなるといったことが起こるようなことは決して なく、ある程度の時間で対処法が解明されます。
  ヒト 自身も大量の微生物を持っているのですし、やはりウ イルスにしろ細菌にしろ、ずっとヒトと一緒に生きて きたものであって、人間の行動の変化によって、共に 変化してきました。結局は、どのように感染症とつき あっていくのか、そのつきあい方を間違えないように すべきと考えます。



新型コロナウイルス感染症に対応に関する重要なお知らせ

新型コロナウイルス感染症が疑われる方へ
■厚労省より示されている相談、受診の目安は下記になります。
・風邪の症状や37.5度以上の熱が4日以上続く方(解熱剤を飲み続けなければならない方も含みます)
・強いだるさや息苦しさ(呼吸困難)がある方

※高齢者や糖尿病、心不全、呼吸疾患などの基礎疾患のある方や透析、免疫抑制剤や抗がん剤等を服用されている方は上記症状が2日以上続く場合
新型コロナウイルス感染が疑われる場合は、各都道府県の「帰国者・接触者相談センター」へご連絡下さい。(港晴労働省HPにリンク)
・ご相談され、新型コロナウイルス感染症が疑われる場合には「帰国者・接触者外来」が紹介されますので、紹介された医療機関を受診下さい。


http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/q044.pdf
隔離用の陰圧室,陽圧室に関する施設基準
隔離用の個室として重要なことは
独立空調として,換気回数,温度,湿度等の管理が行える ようにすること,
清掃しやすい構造とすること,
定期的にスモークテスト等により,空調の確 認をすること,です.  

確実な陰圧隔離を行うためには,
前室を設け,病室と前室は単独の給排気を行い,
廊下と前室, 前室と病室の間に圧差が生じるようにして,病室の空気が廊下に流出しないようにしなくてはなり ません.

  このためには病室と前室の扉が同時に開かないようにする必要があります.また,給気側 のダクトには高性能フィルターまたは逆流防止ダンパを設け,排気側のダクトには第一類感染症を 取り扱う第一種病室の場合はHEPAフィルターを付けて,病原微生物が病室外に放散するのを防ぐ処 置が必要です.
  病室・前室の病原微生物,塵埃の数を減らすためには室内空気の一定回数以上の換 気が必要となります.CDCが推奨している99%以上の換気を短時間で行うためには,室内の換気回 数は12回/時間以上に設定されていることが望ましいとされています.
  また空気の再循環を行う場 合,全換気回数のうち2回/時間以上は外気による換気を行う必要があります.再循環を行う場合に は,病室と前室の換気は独立したものとし,空調機にはHEPAフィルターの装着が必要です.
  なお, CDCのガイドラインでは病室内空気圧の圧差は2.5パスカル以上[0.01インチ水位]に維持することが 推奨されています.  陽圧個室の場合も同様に前室を設置し,病室内を2.5パスカル以上[0.01インチ水位]の圧差の陽圧 に維持することが推奨されています.また無菌病室においては,HEPAフィルターまたは層流吹き出 しの装備された空調システムを設置することが望ましいです.
   厚生労働省の定めるもっとも厳しい第一種病室の基準では,前室付きの15m2 以上の広さをもつ陰 圧個室で,病室内にポータブルX線撮影機,超音波検査機,シャワー,トイレ,ロッカー等があり, 患者の生活の一切が病室内で完結できるように設定されています.


院内感染対策<2>-特に施設面について
結核予防会複十字病院副院長 中島由槻
 結核院内感染対策における施設面での対応について具体策を述べ、さらに結核予防会複十字病院におけるいくつかの改修点について述べた。施設に関しては、新築であれ改修であれ、病室であれ急患室処置室であれ、(前室付)陰圧室とし、高換気、HEPAフィルターユニットによる室内循環換気システム、HEPAフィルター付室内浄化ユニット、紫外線ユニットの諸設備の有効な組み合わせで室内の空気浄化を達成する。一般病院、保健所等においては、前述の空気浄化対策のある室を、病室、外来に少なくとも各1室確保する。さらに外来では採痰ブースを設置する。 今後結核病棟においても、排菌患者を収容する同様の前室付陰圧室の設置が望ましい。複十字病院では、陰圧の外来待合い、診察室、非結核病棟内高換気処置室、MDR手術用の陰圧空気浄化対策済み個室、陰圧手術室等を改修または新築で設け、さらに外来に採痰ブース、内視鏡室にHEPAフィルター付室内浄化ユニットを設置した。今後結核病棟、細菌検査室の改修を予定している。
はじめに
 前号「結核院内感染対策1」では空気感染である結核の感染経路をいかに遮断するかという観点から、その原則論を述べた。ここではそのうちの細菌性浮遊飛沫核に対する具体的な空気浄化システムについて考察し、最後にニューヨーク市ベルビュー病院やわれわれ結核予防会複十字病院において施行された施設面での対策を示す。
1.新たに施設を作る場合
1)病室
 室内の陰圧を維持し空気が室外へ漏れないようにするために、出入口、窓などをできるだけ気密性の保てる構造にする。出入口には適当な広さの(ストレッチャーでの患者移送が可能な程度で奥行きは約1mくらいでよい)陽圧の前室を設けられれば理想的である。もし場所やコストの点から前室を置けない場合は、出入口のドアは開く動作中もドア内外の圧差が保たれ、かつ外からうちへの気流が維持されやすい引き戸にすべきである。
   なおICUに陰圧室を設置する場合は前室は不要である。なぜなら、ICUは準クリーンルームとして通常陽圧に設定されていて、その中の陰圧室は必要な換気回数をもった単独排気システムと引き戸であれば、室内の空気浄化がなされ、かつ陰圧室外のICU内へ空気は漏れないからである。
 給排気口の位置としては、可及的に出入口に近い部分から患者ベッドの頭部に近いところへ、一定の方向へ気流が流れるように設置する。換気能力は1時間に12回程度の室内気の入れ替えができるシステムとするが、熱効率を考え新鮮空気の取り入れは1時間に4回分とし、残りはHEPAフィルターを排気ダクト内に設置した循環換気システムとする。換気量のうち循環しない分の排気は屋外への単独排気とする。排菌患者が常時居室する病室では、個室であろうと大部屋であろうと、室の広さに見合った換気能力とHEPAフィルターを正しく選択すれば、以上のシステムで十分である。
2)急患室、処置室、気管支鏡室等
 排菌患者の一時的収容場所である急患室、処置室、気管支鏡室などでは、居住性、熱効率等は病室ほど考慮しなくてもよい。これらは室の性格上人の出入りが激しく、常時陰圧を保つのが困難であるが、汚染された空気が極力室外へ漏出しないよう出入口は密閉構造にする。換気は室内の空気の流れが一定になるように給排気口を設置し、排気は屋外への単独排気とする。排菌患者の収容が一時的であるので、循環ダクト内にHEPAフィルターを置く換気循環システムはコストが高いかもしれない。結核排菌患者の収容中、処置中は出入口を密閉し、 1時間12回以上の換気を行うか、または1時間6回の換気+ユニットの運転(1時間に30回の循環通過)でよい。また排菌患者が退出した後は、上記の換気とHEPAフィルター浄化ユニットの使用、天井から下げた紫外線ユニットの使用で、1時間後には室内の空気は十分浄化されているはずである。もし外来で結核排菌患者を診療する機会が多ければ排菌の疑いのある患者をTriage(選別)した後、外来の一画に設置した前述の高換気で陰圧の待合室と診察室を使用すればよい。採痰室、ネブライザー室の基本構造は上記処置室等と同じと考えるが、小スペースの移動式採痰ブースがわが国でも最近作られている。
3)細菌検査室、病理解剖室
 結核菌を扱う可能性のある細菌検査室には、屋外排気のクラスⅡB型安全キャビネットの設置は必須である。検体の処理はすべて安全キャビネット内で行われなければならない。安全キャビネットが正しく使用されている限りは、結核菌の感染対策はまず必要ないと思われるが、念のため室内の空気浄化対策はしておいてもよい。さらに結核菌の取扱件数が多い検査室や、多剤耐性患者を扱う施設の細菌検査ではP3レベルのバイオハザード対策が望まれる。病理解剖室のバイオハザード対策については、日本病理学会の指針がある。
2.既存構造を改築する場合
 排菌患者が常時居室する病室は、理想的には「1.」で述べたものと同じ構造にできればよいが、室内を陰圧にしかつ排気ダクト内にHEPAフィルターを組み込んだ循環システムを、既存の構造に組み込むのは困難な場合が多い。そこで最低限必要なことは、①室の気密性をできるだけ保てるようにする、②換気システムは1時間に6回程度(そのうち2回分は屋外気を取り入れる)の換気ができるものとし、室内気は単独で屋外に排気されるか、中央換気システムに循環せざるをえない場合は室からの排気ダクト内にHEPAフィルター(できれば紫外線ユニットも)を設置する、 ③室内の天井または壁の上部にHEPAフィルター内蔵の循環式室内浄化ユニットを設置する、④さらに天井吊り下げ式紫外線ユニットを追加してもよい。これらの処置によって結核菌の浮遊飛沫核はかなり除去されるはずである。
 排菌のある肺結核、または肺結核が疑わしく排菌の恐れがある患者を一時的に収容する急患室や処置室、ICU、内視鏡室等での結核菌による空気汚染を完全に回避することは不可能である。一方、これらの諸施設の陰圧化、換気システムの改造等にかかるコストは、膨大なものになろう。そこで以下のことを提案する。
3.結核病棟のない一般的医療機関、保健所における具体策
 まず自分の医療機関に年間どのくらいの結核患者が訪れるか、リスクアセスメントをする必要がある。それによって月々の結核患者を扱う数が分かり、どの程度の対策を要するか予測が可能である。しかしながら現在排菌陽性結核患者は年間約1万8,000人であり、地域差を考慮したとしても一般的医療機関であれば、多くても月に数例の排菌患者に遭遇する程度であろう。そしてそれらの患者の大部分は、結核と診断された段階で直ちに隔離施設へ転送または収容される。したがって、排菌患者が診断未確定で救急に来る場合の頻度の少なさを考慮すれば、そのような患者を特別に収容する、先に述べた結核菌対策を施した室(天井吊り下げ式紫外線照射ユニットも併用)を外来部門に1室、病棟、ICU部門に個室1~2室準備すればよいであろう。
 すなわち、症状、経過、胸部単純XPで肺結核が疑わしい患者であれば、直ちに喀痰検査をすると同時に、患者にサージカルマスクを着用させ前述の別室に収容し、職員も高性能フィルターマスクを着用して診察や口腔内吸引、緊急気管支鏡、挿管等を含む救急処置を行う。患者の状態が一般病室への入院でよければ、排菌患者用の病室に収容し、ICU管理が必要な状態であればICUに併設した排菌患者用の個室に収容し、患者の状態が落ち着いたら排菌患者用の病室に移す。 さらに病棟内で排菌患者、または排菌疑いの患者に対する救急を含めての種々の処置(挿管、気管支鏡を含む)を要する場合も、必ず排菌患者用の個室を使用する。以上の対策によって、結核菌浮遊飛沫核の拡散はかなり防げるはずである。なお外来の待合い部門には、咳痰患者を待機させる換気のよいスペースを作る必要があるかもしれない。
 また気管支鏡検査に際して内視鏡室、透視室を使用するときは、①排菌または結核疑い患者の気管支鏡検査を安易に行わない、②やむをえず行う場合は順番の最後に行う、③気道麻酔はキシロカインの喉頭散布ではなく、咳反射の少ないキシロカインネブライザー吸入法にする、④施行時から施行後1~2時間はできるだけ室を締め切って、換気、HEPAフィルターユニット、紫外線ユニットを使用して室内気の浄化に努める、⑤換気システムが不十分であれば、室内気を循環させながらHEPAフィルターユニットと紫外線ユニットを最大限働かせる、等を励行すべきである。なおこれらのことは、咳を誘発する可能性のある上部消化管内視鏡検査に際しても留意すべきである。
 また喀痰細菌検査の頻度の多い施設では、空気浄化対策のなされた採痰ブースを外来その他に1~2個設置する必要があろう。
結核病棟における問題点は、①結核病棟と一般病棟境界部の管理、②感染性(排菌)患者と非感染性(排菌停止)患者との選別、③多剤耐性慢性排菌患者への対応、④長期間療養生活を送らなければならない患者のアメニティ、⑤感染の機会の極めて高い看護婦、ヘルパー等病棟職員の感染防止、などであろう。
1)結核病棟と一般病棟境界部の管理
 結核病棟と一般病棟境界部は、結核病棟が建物として全く独立してあれば別として、結核病棟の空気が一般病棟に流れ込まないなんらかの対策が必要である。しかしながら結核病棟全体を陰圧化することは不可能なので、結核病棟の通常の出入口を1カ所にして、一般病棟との境界部のそこに陰圧の前室を設けることが勧められる。もちろん、結核病棟の換気は独立排気である。
2)感染性患者の収容について
 初回治療の95%はINH・RFPを含む3~4剤による強力化学療法開始後2~3週間で菌量が1/100以下まで減少し、急速に感染性が減少すると言われている。したがって、その約3週間程度の間は先に述べた空気浄化対策のなされた室内に収容し、患者および職員もそれぞれ必要なマスクを装着して対処する。その間できるだけ患者が室外へ出るのを防ぐために、収容する室内にはトイレ、シャワー、テレビ、電話等、患者のアメニティを考慮した配慮が必要である。 そして感染性がほぼ消失したと思われる時点で結核病棟内の一般病室に移せばよい。このような空気浄化対策のなされた病室を結核病棟内にいくつ設ければよいのかについては、その結核病棟への排菌患者の年間入院患者数から、個室数床で対応できるか、さらに大部屋を必要とするか決まってくるであろう。
3)多剤耐性慢性排菌患者への対応
 INH・RFP耐性の多剤耐性肺結核患者は現在日本全国で年間約80人程度発生し、累積患者数として約1,500~2,000人存在すると言われている。(2))これらの患者は長期入院生活を強いられており、入院生活への不満から病棟外、院外への外出が頻繁で、その管理に難渋しているのが現状である。一方、多剤耐性結核菌による集団感染、院内感染の報告も多くなり、これらの対策が急務となってきている(2))。 ただし、正しい結核の治療とDOTSなどを活用した服薬の貫徹で発生が激減することは、ニューヨーク市の経験でも明らかである。また新しく発生する多剤耐性肺結核患者のおそらく半数程度は、他の薬剤による化学療法や外科療法で排菌を止められると推定されるし、また現在療養中の患者においてもその一部は外科療法で排菌を停止せしめえると思われる。したがって、今後このような多剤耐性菌患者がどの程度累積していくかは予測しにくいが、外科的治療を含めた集学的治療で可及的に排菌を止める努力をした後でも排菌の止まらない患者の入院の長期化は、現在の日本ではやむをえない。この場合は長期の入院生活の、言い換えれば病院で生活するための配慮が必要となる。
 一般に長期間単独で居室する場合のストレスは相当なものがあり、もしこのような患者が数人いれば先に述べた空気浄化対策済みの大部屋で居室させるのがよいと思われる。もちろん室内の患者のアメニティを配慮した諸設備の設置、出入口(引き戸)の閉鎖、室に入るときのマスクの着用は当然であるが、ただ閉塞感をできるだけ和らげるために、出入り口を透明にする等なんらかの工夫が必要であろう。
 なお個体の細胞性免疫が正常であれば結核の再感染はないのであるから、一般的に耐性菌患者と感性菌患者を同室にしてもよい。したがって、長期間の入院に配慮した多剤耐性菌患者用の大部屋を数室作り、通常の感性菌患者をその排菌期間中の2~3週間のみそこに収容することが、病室のもっとも有効な活用方法であると思われる。
4)長期間療養生活を送らなければならない患者のアメニティ(略)
5)感染の機会の極めて高い看護婦、ヘルパー等病棟職員の感染防止
 種々の病室対策を施行しても、結局患者は室外へ出てくるのが常である。排菌患者にマスクの装着を徹底させるにしても、場所によってはなんらかの空気浄化対策が必要であろう。特に病棟内で吸入、排痰訓練、気管支鏡、挿管等の処置をする処置室は陰圧にして厳重な空気浄化対策を施行すべきである。その他廊下や食堂等は換気回数を増やすことが求められるし、看護室、看護準備室は陽圧(室内に給気され廊下等室外へ排気される構造)にすべきであろう。
5.結核予防会複十字病院における施設の改造について
 平成9年後半から10年前半にかけて、複十字病院では手術室、理学療法室、呼吸器外科病棟、整形外科病棟を含む建物を新築し、併せて建築以来20年経過した本館建物のうち、非結核呼吸器診療を中心とした病棟および外来部門の改修を行った。以下、この機会に当院において施行されたいくつかの改善策について提示する。
1)外来
 外来は結核菌の排菌患者がそれと気づかずに、または結核として紹介された未治療の患者が隔離される前に、一般の患者に混じって同一領域内で待機しまたは処置を受けるので、もし排菌患者がいた場合、結核菌で汚染された空気を、たとえ1~2時間といえども、多くの一般の患者や職員が吸入する危険性が大きい。当院では現在も年間250~300人くらいの排菌陽性患者の入院があり、そのすべてが外来診察を受けるわけではないが(紹介による直接入院がある。ただしそれでも外来での事務手続きは必要)、平均して週に数人の排菌患者が外来を訪れることになり、外来にいる結核未感染者が感染を受ける機会は大きいと言わざるをえない。
 これまで20年間、当院では結核患者であろうとなかろうと、呼吸器系の患者はすべて呼吸器外来患者の待合室で待機し、呼吸器の新患外来ブースで診察を受け、約1m四方の換気のない採痰室を共用していた。結核の既感染者が多かった過去においてはそれでも問題はなかったであろうし、事実、当院において院内感染に由来すると思われる結核の発病は、現在までのところほとんどみられていない。しかしながら、中年以下の年代の大部分が結核未感染者となりつつある現在、感染の危険を極力減少させるため外来においては以下の改造を行った。
 (1)陰圧外来待合室・診察室の増設
  呼吸器外来の端の一画に、7.6×5.8mの広さの独立した換気システムをもつ結核排菌患者用の待合室と診察室を設置した(図1・写真1)。そのスペースはできるだけ気密性が保てるように、他の呼吸器外来ブースとの境をパネルで堅固なものとし、待合室、診察室共用の前室を設けた。換気は前室は給気のみの陽圧、待合室は1時間に24回の換気ができるよう排気量を設定し、排気量の25%は外気から直接室内への給気、残り75%のうち3%は前室から、72%はホール内の室内気が前室のガラリを通って待合室に流れ込むようにした。 診察室は同じく22回/時の換気ができるよう排気量を設定、給気は外気からの室内への直接給気が46%、前室から3%、ホールから51%となっている。もちろん、両室の排気は共通のダクトからHEPAフィルターを通して屋外へ単独に排気されている。このような給排気のシステムにより、室内の十分な換気が維持され、汚染された室内気のホール等屋内の他の部位への漏出が防止され、かつホールの空気を約60%程度取り入れることにより、熱効率のロスをできるだけ軽減している。
 (2)採痰ブースの設置
 排菌患者の採痰用に結核患者待合室内に1台、一般患者の中に排菌患者が紛れ込む場合に備えて通常の呼吸器外来待合室の一画に1台の、計2台の採痰ブースを設置した。これらは米国の既製品を参考に、既存のエアーロックルームを改良設計し作製した(図2・写真1)。採痰ブースの基本構造は、130×80×250cmのボックスに人1人が立って入れる(痰の出しにくい人の吸入のために収納型の小椅子を付設)ような80×80×180cmの小室を作り、その中をHEPAフィルターを通した空気が1時間に610回循環するようになっている。このことにより、約15秒でブース内空気中の0.3μ以上の粒子は99.99%以上除去される。循環する空気の18%はHEPAフィルター付き排気ファンで強制的に室外(通常の待合ホール)へ排気され、その排気量に見合った空気がホールから給気ダンパーを通して室内に流入する。 この給気ダンパーを適度に閉めることにより、室内(採痰ブース内)の陰圧が維持される。採痰ブースの作製に際しての問題点は、扉を開けたときいかにして室内の汚染された空気の外部への漏出を防ぐかであった。スペース的には扉は片開きにせざるをえないが、開けた瞬間に室内外の圧勾配が崩れ内部の汚染された空気が室外へ漏出する。米国の既製品では、扉を開けた瞬間にドアスイッチにより強力な排気ファンが作動する構造であたが、それでも汚染空気の漏出は避けられない。筆者らは痰喀出後直ちに扉を開けるのでなく、少しの間(15~18秒間)患者に室内にとどまってもらうような機構を採用した。この採痰ブースは呼吸器患者の多い一般病院や保健所の外来の一画に設置可能である。
 (3)呼吸器外科病棟内に陰陽圧切り換え可能な準クリーンルームの設置
 当院呼吸器外科では病院の性格上、多剤耐性肺結核、膿胸の患者の手術がしばしばある。特に近年は増加傾向にあり、平成9年は6例、平成10年は上半期で5例の多きに達し、さらに数例の待機患者がいる。ところでこれらの患者には、肺機能に余裕がない、術式が複雑等の条件が重なり比較的リスクが悪いものが多く、術後呼吸器外科病棟において注意深い管理が必要である。一方、これらの患者の約70%は手術時に排菌陽性であり(3))、開窓術や胸郭成形の術後はもちろんのこと、空洞性病巣を含む肺切除術後においても短期間排菌のみられることがある。したがって、術後患者を収容する病室には、空気浄化の設備が不可欠であると考えられる。 このような考えから、筆者らはICUの個室2室を、陰陽圧切り換え可能で空気浄化対策を施した準クリーンルームとした(図3・写真2)。それぞれの室ではHEPAフィルターを通して室内の空気が1時間に35回循環し、そのうち3.4回分は外気を取り入れ、2.4回分排気することで室内が陽圧に、6.1回分強制排気することで陰圧になる構造になっている。もちろん排気は単独屋外排気である。また前室はないが出入口は引き戸にした。このような空気浄化システムにより、実測で10分以内に陽圧時99.9%の、陰圧時98%の(陰圧時は扉の隙間から室外の空気が常時少しずつ流入するので、パーティクルカウンターによる実測値は陽圧時より悪くなる)室内浄化能力が達成された。
 (4)陰圧手術室の設置
 (3)に述べたと同じ理由で、4手術室のうちの1室を陰圧にした。元来手術室は、クリーンルーム以外でも手術台の上からHEPAフィルターを通った清浄気が吹き出して、一部を室の四隅で排気し一部を室のダンパーから室外へ逃がし、結果的に陽圧になる構造になっている。しかしながらそれでは麻酔挿管時や術中の耐性結核菌に汚染された空気が他の部位へ広がることになる。そこで室の四隅からの排気量を手術台の上部から出てくる清浄気の給気量より6%多く設定し、給排気量の差により、清浄気が吹き出している廊下の空気がダンパーを通して室内へ入るようにした。ちなみにこの手術室の換気回数は、1時間に25.4回である。
 (5)非結核呼吸器病棟内1個室の処置室への転換と換気システムの改良
 当院では結核と診断された患者はすべて結核病棟への入院となるので、非結核呼吸器病棟に排菌患者が紛れ込むことはほとんどないが、急患または急変時の処置室用として、または理学療法での排痰訓練用として、個室の一室を大容量排気ファンによる独立排気システムに変更した。その概要は1時間に10.4回の換気能力をもつ排気ファンを天井に2台設置し、通常は1台で運転し、ドア解放時にはドアスイッチを作動させもう1台を並列で運転することにより1時間に21回の換気が得られるようにしたこと、排気は天井から独立した排気ダクトで屋外へ誘導するようにしたことである。しかしこの改修の問題点は、既存の木製の開き扉にドアスイッチを付設したことである。ドアの頻回の開閉でドアスイッチが作動しなくなるようであり、ドアスイッチを使うのであれば、ドアも含めて相当堅固なものにする必要があると思われる。
 (6)内視鏡室の改修
 当院では気管支鏡検査は、キシロカインの気管内噴霧と非透視の気管支鏡検査用の1室、およびその隣のリングアーム室の2室で行われている。リングアーム室は換気回数が1時間に16回で屋外へ独立排気され、さらに天井吊り下げ式紫外線照射装置が1台既設されているので、不十分ながら空気浄化対策はなされていると思われる。しかし非透視の気管支鏡室はエアコンのみで排気はアコーディオンカーテンのみの出入口から室外へ自然に流出するだけであった。この室は当初、アコーディオンカーテンを扉に変更し、天井に1時間に14回以上の換気をする強制排気ファンと屋外への独立排気ダクトを増設し、室内に1時間当たり室の容積の24.5回分の空気循環をするエアークリーンボックスを設置する予定であったが、現在気管支鏡室の移転計画がもち上がり、とりあえず扉とエアークリーンボックスだけを設置した。なおエアークリーンボックスは、空気の吹き出し口が狭く風速が大きいので、吹き出し口の方向を工夫する必要がある。
 (7)結核病棟における病室の改修
 今回の改修は結核病棟は対象外であった。それは①資金的問題、②増築と改修が計画された当初は結核病棟における施設面での院内感染対策をどうすべきか結論が出ていなかったこと、③エイズに合併した結核の治療の国のモデル病棟として、平成8年に個室(1床室)の一部8室が陰圧または陽陰圧切り替え室に改修されていたことなどが理由であった。しかしこの8室は少なくとも結核菌に汚染された空気の浄化対策はなされているのであり、当面この8室の上手な運用が望まれている。
 ここでは8室の概要を述べておく。それぞれの室では、単独で熱交換機を通して屋外気からの給気と屋外への排気がなされ(給排気ともHEPAフィルターを通過)、1時間に室用量の10回分の給気量で、陰圧時は1時間に14回分の排気量が設定されている。すなわち、また各室にはオゾン発生ダクト内紫外線照射装置が壁に付設されている。
 (注)本稿校閲時に結核病棟内の改修計画がスタートした。その概要は結核病棟の一区画を排菌患者用に改修し、そこへの入り口に前室を設け、十分な空気浄化対策を施した4床室2室、2床室2室、処置室、談話室、バス、トイレを造るものである。
 (8)病理解剖室
 上記結核病棟個室の改修時、同時に日本病理学会の指針に従って病理解剖室の厳重なバイオハザード対策も行われた。
 (9)細菌検査室
 現在細菌検査室には安全キャビネットが1台あるが、もう1台ⅡB型を追加し、それらを使用する場所はP3レベルのバイオハザード対策を取る予定である。
 (10)その他の場所
 その他病院内の共有場所についての空気浄化対策は、今回断念せざるをえなかった。しかし、それらの場所における基本的な考え方を述べておきたい。
 まず塗抹陽性で感染力のある期間は排菌患者の出入りを可及的に制限し、やむをえないときはサージカルマスクを着けて行動させることで対応する。ただしXP室(胸部単純、断層、CT室)、歯科、聴力検査室、眼科検査室は換気能力のアップと、共用換気システムに戻る排気ダクト内にHEPAフィルターの設置が必要であろう。心電図は結核病棟内で専用のものを使う。排菌患者に肺機能検査を行う場合はフローボリューム検査のみとし、病棟で使用できるポータブルタイプのものを使用する。なお排菌患者の理学療法は空気浄化対策のとられた病棟内処置室にて行うべきであると考える。
6.ニューヨーク市ベルビュー病院における対策
 ベルビュー病院では1992年から結核の院内感染対策の見直し作業がスタートし、米国のCDCの勧告に従って施設と運用の改善が行われた。その結果、職員の結核感染率は約1/4に減少したとのことである。詳しくは拙文(4))を参照していただきたいが、わが国でも比較的低コストで導入できると思われる前室なしの個室における換気システムについて、その改良前後のシェーマを示しておく。
おわりに
 昨今、新聞紙上に結核の集団感染、院内感染がたびたび大きく取り上げられている。結核の既感染率が中年以下で激減し、BCGは結核の感染を予防できない(発病の予防効果はある)以上、麻疹、水痘と同じ空気感染である結核の感染を集団的に防止することは、実は以外に困難なことであるかもしれない。結核は同じ空気感染をする麻疹、水痘と異なり、結核菌による組織の修復不能な破壊が生じ、病気の進行度により治癒後の個体のQOL、予後に決定的な差異をもたらす。その点を考えると、実は極めてやっかいな空気感染症ということができよう。したがって、ここまで述べてきたような感染防止対策は、本腰を入れてまじめに行われなければならないと思われる。
 これらの施設の改良に関するコストは、どのくらい完璧に行うかで大きな差があると言われている。しかしちなみに個室の天井に排気ファンとダクトを設置するだけなら約100~200万円くらいでできるようであるし、既成のクリーンボックスも大部屋用で1台100万円前後、採痰ブースも150~200万円くらいとされている。HEPAフィルターも60×60×4cmのもので約6万円で、呼吸器外科病棟のICUの個室ではそれが1室当たり2枚使用されているのみであり、寿命は数カ月~1 年間とされている。大きな予算が取れないとしても、これらの比較的安価でできる改良をいくつか行うのみでも、当面ある程度の有効性は確保されると思われる。


2020.4.6-MarkMax(太陽工業KK)-https://www.taiyokogyo.co.jp/blog/disasterprevention/a167
医療従事者が押さえるべき「医療用陰圧テント」の機能と目的

新型コロナウイルスなどの感染症に対応するために、医療現場における陰圧テントの活用が注目を集めています。感染症対策の必須設備ともいえる医療用陰圧テント ・・・「陰圧」とは
陰圧とは、物体の内部の圧力が外部より低い状態のことを指します。陰圧室や陰圧テントとは内部の空気圧を外部より低く調整している施設のことです。
空気は圧力の高いほうから低いほうに流れるため、陰圧室内の空気は外部に漏れません。よって感染源の拡散を防ぐ役割を果たします。
確実な陰圧隔離を行うためには「陰圧室」が必要(一般社団法人 日本感染症学会によると、理想的な陰圧隔離には以下のような設備が必要です。)
(以下引用)
確実な陰圧隔離を行うためには、前室を設け、病室と前室は単独の給排気を行い、廊下と前室、前室と病室の間に圧差が生じるようにして、病室の空気が廊下に流出しないようにしなくてはなりません。(中略)病室・前室の病原微生物、塵埃の数を減らすためには室内空気の一定回数以上の換気が必要となります。CDCが推奨している99%以上の換気を短時間で行うためには、室内の換気回数は12回/時間以上に設定されていることが望ましいとされています。また空気の再循環を行う場合、全換気回数のうち2回/時間以上は外気による換気を行う必要があります。再循環を行う場合には、病室と前室の換気は独立したものとし、空調機にはHEPAフィルターの装着が必要です。なお、CDCのガイドラインでは病室内空気圧の圧差は2.5パスカル以上[0.01インチ水位]に維持することが推奨されています。
(引用終わり)
このような基準を満たす陰圧設備として「陰圧病室」を施設内に備える病院もあります。
これらの病院は感染症法という法律に基づき、「指定医療機関」として全国に約400カ所に存在しますが、どこの病院にも陰圧病室があるわけではありません。
陰圧病室を設けることは確実性の高い感染症対策にはなりますが、一方で莫大な費用がかかるうえ、本格的な工事等を要し、実装までに時間がかかります。そこで現在特に注目されているのが、低コストで素早く設置することができる、医療用陰圧テントです。
医療用陰圧テントとは、どのようなものなのでしょうか。

 エアーテントでの外来受付
パンデミックなどの感染拡大時には、病院などの施設は感染者と感染しやすい状態の人が集中しますので、感染を防ぐためには診察時の動線を隔てる必要があります。
建物の壁など構造によって動線を分けることはコスト面で容易ではなく、一方で、簡易的なパーテーションを立てる程度では感染リスクを十分にコントロールできません。
そこで、任意の場所、例えば病棟外に簡単に素早く設置できる「エアーテント」を用いて動線を分ける方法が注目されています。
テント自体が密閉空間として一定の感染拡大を防止する効果があることに加え、陰圧機能を持たせることによって、大きな効果が期待できます。

さらに確実に動線を分ける方法として、同じくエアーテントを用いて、患者などの来院者が車から降りることなく、乗ったまま受診できる「ドライブスルー型」の外来受付を設ける方法もあります。

2020年3月現在、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、愛知県や静岡県、新潟県をはじめとしてPCR検査の体制拡充が検討されています。ドライブスルー型のメリットとエアーテントが用いられる理由を以下にまとめます。

感染が疑われる対象者が外来を受診すると院内感染のリスクが生じるが、この方式は車の中で一連の診察を終えるため、不特定多数との接触は起きない。
室内に入らないため、患者の出入りにともなう消毒を行う必要がない。
消毒などの時間が室内に比べて少なくてすむため検査の時間を短縮できる。
待機中の交差感染懸念を和らげられる。
医療機関などで検体を採取する際、医師は着用する防護服を1人分の採取が終わるたびに、ウイルスに感染しないよう慎重に脱ぐ必要があり、1人分の採取に1時間かかることもある。ドライブスルー方式なら時間がかからず、医師も防護服を着替えずに手袋の交換で済ませられるメリットがある。
全天候型での利用が可能
利用者車両のプライバシーの確保が可能 屋外なので早く設置できる

また、海外ではドライブスルーが検査以外にも活用されている実例があります。新型コロナウイルスによる感染拡大を防ぐために幼稚園や小中高の新学期開始を延期した結果、教科書を受け取っていない新入生が、教科書がないまま自宅で自習をしないとならないという問題が発生しました。そこで、対面接触による感染拡大を回避するためにドライブスルー方式を利用して新入生に教科書を渡す取組みがなされました。
ーー緊急医療の現場などに最適な医療用エアーテントについて詳しくは、以下の記事からご確認いただけます。

『災害現場での緊急医療の拠点に最適な医療エアーテント「マク・クイックシェルター」』
医療用のテントに求められる機能
医療用テントは、災害現場での救護・緊急医療処置のスペースとして使用されます。感染症の流行時などには除染の臨時拠点として設ける仮設のテントが該当します。現場で利用される場面から、医療用のテントには下記のような機能が求められます。

-平時はコンパクトに収納しておける
臨時の医療拠点が必要なほどの事態はそう頻繁に生じるものではなく、理想的には全く発生しないことが望まれます。医療用のテントは使用時の利便性と同じくらい、収納に関して高い機能性が求められるといえるでしょう。
平時には場所をとらず、使用時にはすぐに取り出せるような、コンパクトな収納性を備えている必要があります。
-簡単に持ち運びができる
医療現場等に臨時に設営するテントとしては、下記画像のような従来型の蛇腹式パイプテントなどがイメージされがちです。ところがこれは持ち運びぶだけでも大人数が必要であり、設置も困難であるために緊急対応に最適とは言い難い仕様です。
医療用テントを検討するのであれば、一式につき2名程度でで容易に持ち運べる軽量さと、コンパクトさを求めましょう。
-誰にでも簡単に扱うことができる
非常事態に使用する設備は、特定の技能や経験を持つ人員のみが対応できるものでは、万一には適切に利用できないことが想定されます。緊急時の限られた人員の中から、誰でもが簡単に扱える必要があります。
設営方法が複雑であったり、重量が重かったりするなど、慣れた人でないと設営が難しいものは好ましくありません。
-少人数で設置できる
緊急時にはどれだけの人がすぐに動けるか分からないことを考えると、持ち運び時だけでなく、設営に関しても少人数で対応できる機能が求められます。
本来の目的である医療行為等に可能な限りのリソースを投下するためにも、テントの設営はわずかな人数で完了できる必要があります。
 -短時間で設置できる
上記のように安全性の高いものであっても、万一の事態には備える必要があります。メンテナンスが容易なものを選ぶようにしましょう。緊急時に業者が工場に持ち帰らないと修理できないようなものでは、災害現場で用いることはできません。
-トリアージへの対応ができる
大事故・災害などで多数の患者が出た際、手当ての緊急度に従って優先順をつけることをトリアージと言います。災害医療等の現場ではトリアージを行う場所として「トリアージポスト」が必要になります。
多くは病院の駐車場などでテントを設置しますが、スペースを確保するだけでなく、患者の優先順位に応じてテント色を分けて管理しやすくすることが求められます。
-感染拡大などを防ぐことができる
予測が難しい感染症のパンデミックなどでは、院内感染などの二次被害を防ぐためテントを用いて対象者を隔離する場合があります。その際、極力空気が外部に漏れないようにして感染拡大を防ぐ機能が、医療用テントには要求されます。
-シャワー室などの設備を付けられる
医療現場では、感染症防止など様々な目的でシャワーや他の設備が必要になります。これらの設備もテント内部に保有できる拡張性が、医療用テントには求められます。
-安全性が高い
様々な非常事態が想定される現場で使用されるテントにおいては、破損や、火災など二次災害を防ぐためにも、安全性にも配慮した機能を備えている必要があります。できるだけ丈夫で、耐火性の高い素材を用いたテントを選ばなければなりません。
 -目立つ・遠くからでも役割が分かる
非常事態の現場は混乱が予想される他、複数の臨時施設やテントが並び建つことが考えられます。誰もが目的とする設備に迷わず辿り着けるよう色や文字などデザイン面で目立つようにして、テントの役割がすぐに分かるようにしておくことが必要です。































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