経済問題-1


2024.07.17-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240717-WLPOYJSM6NFL5JENW5QSW7SUWM/
米マスク氏、加州のトランスジェンダー法に反発 X本社のテキサス州移転を表明
(三井美奈)

  米国の実業家イーロン・マスク氏16日、X(旧ツイッター)と宇宙企業スペースXの本社をカリフォルニア州からテキサス州に移転すると表明した。カリフォルニア州がトランスジェンダーの子供をめぐる新法を成立させたことに反発した。Xに「我慢の限界だ」と書き込んだ。
  この新法は、児童や生徒が性自認を変えた場合、学校が本人の許可なしに保護者に通知することを禁じている。法は民主党主導の州議会で可決され、同党のニューサム知事が15日に署名した。

  マスク氏はXで「私は1年前、ニューサム知事に対し、こうした法ができれば、子供たちを守るために会社や家族がカリフォルニア州から離れることを余儀なくされると伝えていた」と不満を記した。Xの本社はテキサス州オースティン、スペースXは同州にある同社の宇宙基地「スターベース」にそれぞれ移すとしている。
  カリフォルニア州の新法は、トランスジェンダーの児童や生徒は「恐れや罰則、報復なしに学校で自由に自己主張する権利を持つ」と明記した。同意なしに教員や職員によって性自認を明かされないことも、その権利のひとつだと位置付けた法はまた子供に性自認を周囲に明かすよう無理強いすれば、「家族と信頼を構築し、本人の心の準備ができたときに対話する機会を奪う」ことになるとした。法を順守して子供の性自認の秘匿を守った教員に対し、解雇などの報復措置をとることも禁じた
  ニューサム氏は2019年にカリフォルニア州知事に就任した。米大統領選でバイデン大統領に対する立候補取り下げ圧力が強まる中、有力な代替候補の1人として名前があがっている米国では民主党議員を中心に、カリフォルニアと同様の州法を目指す動きがある一方、共和党が「親の権利」を主張して反対するなど、トランスジェンダー法をめぐる政治対立が激しくなっている。テキサス州では共和党知事が政権を担う。(三井美奈)


2024.07.05-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240705-2UZB57TRZBL2DK24JL5QZ6JMRQ/
NTTドコモの前田義晃社長 年度内にも銀行業参入 スポーツやエンタメ事業者との連携にも注力
(根本和哉)

  6月にNTTドコモの社長に就任した前田義晃氏は4日までに産経新聞のインタビューに応じ、令和6年度中にも銀行業へ参入する考えを明らかにしたグループ内のサービスを連携させて顧客を囲い込む「経済圏」を強化する上で「(銀行を)機能として持っておきたい」と説明。経済圏をスポーツやエンターテインメントなどの領域にも拡大し、幅広い層の顧客獲得を目指す

  ドコモは携帯大手の中で唯一、グループの傘下に銀行を持っていない。前田氏は展開するそれぞれのサービスを切れ目なく利用するには、グループ内に銀行が存在する方が有利だと指摘。「合理的に運営できた方が顧客に還元できることも多い」と述べた。
  銀行業への参入にあたっては、他銀行の買収や自社での立ち上げなど、あらゆる手法を検討する。時期は「今年度中にやれたらうれしい」と語った。
  経済圏の強化へ向け、プロスポーツやエンターテインメント事業者との提携も推進する考えも示した。例えば、提携するスポーツチームの試合でグッズを購入した際に、ドコモの「dポイント」を追加付与するようなことが考えられるという。ドコモなどは5月に民間事業者として国立競技場(東京都新宿区)の運営を担う優先交渉権者に選定されたが、応募したのもこの一環だと説明した。
  前田氏は「顧客が(自社のサービスを)利用したいというモチベーションを引き上げることが重要だ」と指摘。スポーツチームやアーティストのファンらに自社サービスをアピールし「仲間を増やしていきたい」と意気込んだ。
  一方、ドコモの全事業の基礎となるのは通信環境だとも強調し、品質改善に努める方針を示した。就任後は都内の電車に機器を持って乗り込み、自ら各地の通信品質を計測したという。
  前田氏は「例えば、決済アプリの起動速度を上げても、通信環境が悪いところでは神経を注いでいた機能にパフォーマンスが出ない」と指摘。実地調査も積極的に行い、つながりにくい場所をしらみつぶしに減らすと宣言した。(根本和哉)


2024.06.13-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240613-QGQL6YLTF5IBFB22SQ7RRBP5NI/
「炎上」防止で不祥事会見にも同席 企業の危機管理巡り〝コンサル化〟する弁護士
(久原昂也)

  企業で不祥事や問題が起きた際の「危機管理」を巡り、法律の専門家である弁護士が果たす役割が高まっている対応を誤ればただちに交流サイト(SNS)で拡散されて炎上し、株価の暴落や株主による訴訟提起などのリスクに直面する現代記者会見への同席など幅広い貢献が求められるようになり、弁護士の「コンサルタント化」が進んでいる。

全局面で関与
  「先生、どうしたらいいですか」 ある食品メーカーが頼ったのは、企業の危機管理に詳しい松田綜合法律事務所の岩月泰頼弁護士だった。
  この企業が販売している加工食品で、食品表示法に抵触する可能性のある表示ミスがあることが、内部通報で発覚したという。岩月弁護士は、すぐに社内で調査委員会を設置するよう指示。どのような表示ミスが何件あったのか、商品のロット番号は何番かなど、細部を含めて全容把握に努めることの重要性を強調した。
  判明した事実は、弁護士経由で当局にリアルタイムで共有。取引先へは、自主回収や再発防止策の説明などを行った。
  内部調査、再発防止策の策定、当局対応、そして取引先への説明-。結局、この不祥事が訴訟に発展することはなかったが、そのすべてに関与した岩月弁護士は、こう語る。 「弁護士は以前は法律の助言だけを求められることが多かったが、今は危機対応に対する総合的な助言が求められる時代になっている」
一瞬で評価失墜
  企業にとって不祥事後の対応は非常に重要だが、近年では記者会見での情報開示が不十分だったり、事態を過小評価したりして火に油を注ぐケースが目立つ
  小林製薬が製造した紅麹の原料を巡る問題では、社内調査に時間をかけ過ぎたことで情報開示や商品の自主回収が遅れ、非難が殺到した。
  宝塚歌劇団の劇団員の女性が急死した問題でも、記者会見で当初、上級生らによる女性へのパワハラを認めずに遺族側の主張に異議を唱えたことで批判を浴び、最終的にパワハラを認め謝罪する事態
となった。
  多方面から注目を浴びた不祥事といえば、創業者の故ジャニー喜多川氏の性加害問題で揺れた旧ジャニーズ事務所だろう。1回目の会見は、喜多川氏の性加害の事実を認めた一方、事務所として再出発したい意向を強調したことで紛糾。2回目の会見では社名変更と被害者への補償終了後の廃業を表明するなどしたが、対応は後手に回った
  ただ、会見では記者からの質問で東山紀之社長が言葉に詰まった際や、会社を法的にどう処理するかを問われた際に弁護士が回答するなどし、一定の安定感を印象づけた。
  こうした弁護士の会見同席について、危機管理問題に詳しい甲南大学の園田寿名誉教授は「経営陣が保身に走っていると思われるリスクもある」と指摘しつつ「負うべき責任を世間に正確に伝え、過剰になりがちな攻撃を緩和する意味では有効」と話す。
高まるコンプラ意識
  近年、企業の社会的責任や法令順守・コンプライアンスの意識が社会に浸透したことで、危機管理で求められる対策は複雑化している
  企業への法的なアドバイスだけでなく、広報文や会見での想定問答の作成、その企業が関係する経済事件が起きた場合には捜査当局や取引先への説明など、求められる仕事は多岐にわたる。
  さらには、経営陣との関係構築も不可欠だ。不祥事では株主訴訟のリスクも大きくなるため、情報開示に消極的になる経営者も少ない。円滑な情報開示を行うためには、そうしたリスクも加味した助言が重要になる。
  岩月弁護士は「企業がより社会的な存在になり、信頼されなければモノやサービスが『売れない時代』になった。法的問題を踏まえて対応を助言できる弁護士の役割は、今後も高まるだろう」としている。
(久原昂也)


2024.05.22-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240522-6WY3YD7TPFIAXK4CRD2RQ4TYVE/
6月から少しだけ懐あたたかく 1人4万円の定額減税 毎月の手取りはどうなる?
(田中万紀)

  6月から1人当たり4万円の「定額減税」が始まる。特にサラリーマンら給与所得者の場合、賞与の支給も重なる6~7月は、数万円の手取りアップが見込めそうだ。一方で、一時的な施策のため、効果を疑問視する見方もある。
  1人当たり所得税3万円と住民税1万円の計4万円が減税される。納税者とその扶養家族が対象で、3人家族なら12万円、4人なら16万円…と人数に応じて額が増える。所得税は6月から減税。住民税は6月は納めずに、7月以降の11カ月間で、年間分から減税された残りをならして毎月徴収される。年金受給者、自営業者も対象。自営業者が減税を受けるのは、確定申告などの機会となる。

減税は納税額の範囲で
  ある程度の税金を納める中間所得者層に配慮した仕組みで、所得1805万円(給与収入2000万円)を超えると対象外となる。
  ただ、納める税額を超えて減税することはできないので、税額が少ないと満額まで減税されないケースも。「満額の減税を受けるには、減税可能額以上の税金を納めている必要があります」と、税理士・社労士の寺田慎也さん(47)は説明する。
  満額減税となる年収の目安は、家族構成などによって異なる。配偶者と大学生1人を扶養する給与所得者は年収約575万円以上、配偶者と小学生2人を扶養していれば約535万円以上となっている。
低所得世帯には給付金
  一方、納税額が少なく満額の減税が受けられない人には、差額が「調整給付」として、1万円単位(端数切り上げ)で支給される救済策がある。
  また住宅ローン減税を受けるために定額減税枠が使い切れない場合も、調整給付の対象となる。所得税額などに応じて上限が決まる「ふるさと納税」の限度額は、減税前の額で計算されるため影響はない。
  定額減税の恩恵を受けられない非課税世帯や低所得世帯には、代わりに7万~10万円の給付がある。子育て世帯には、18歳以下の子供1人当たり5万円が上乗せされる。
実際の税額と手取りは?
  6月以降、毎月納める税と手取りの額はどう変わるのか。所得税月6000円、住民税月1万2000円の単身サラリーマンの場合で見てみよう。
  6月給与では所得税、住民税ともに引かれない。その分、5月よりも手取りが1万8000円増える。所得税は、定額減税分の3万円に達する10月まで引かれない。
  一方、住民税は、年額14万4000円から1万円を減税。差し引き13万4000円を、来年5月までの11カ月間に分けて納める。100円未満は7月にまとめる。年額を11カ月でならすので、月あたりの住民税額は減税前よりも増える計算となる。
  寺田さんは「物価高騰にあえぐ家計に少なからず余裕が生まれる。とりわけ、これまでの給付金中心の政府の経済対策では恩恵を受けづらかった層に広く薄くメリットをもたらす設計になっている」と指摘する一方で、「月に数千円から数万円程度の減税では消費につながりづらく、経済を刺激するには至らないかもしれない」と、経済政策としては十分ではないとの見方を示した。 (田中万紀)


2024.04.10-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240410-EQTUDU4TKRMS3AMBH3K2PYB7WY/
ビッグモーターの屋外展示車の盗難相次ぐ 4県6店舗で計29台、各県警が捜査

  中古車販売大手ビッグモーター群馬、埼玉、山梨、長野の各県にある6店舗で、車を盗まれる被害が相次いでいたことが10日、同社への取材で分かった。これまでに29台の被害を確認し、いずれも閉店後に国産車が狙われたが、関連の有無は不明。各県警が窃盗事件として捜査している。

  同社によると、最初は1月29日に館林店(群馬県館林市)で8台盗まれた。その後、3月2日に春日部店(埼玉県春日部市)で3台、4月2日に坂戸店(同県坂戸市)で10台、同5日に甲斐店(山梨県甲斐市)と甲府店(甲府市)で計5台、同9日に松本店(長野県松本市)で3台盗まれた。いずれも営業時間外の午前0~5時ごろで、警備システムが認知して従業員らが到着するまでの間に、屋外の展示車が動かされていたという。
  同社は既に被害届を提出。捜査関係者によると、埼玉県内では今年に入り、他社の中古車販売店でも同様の被害が相次いでいる


2024.04.08-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240408-2EOEHXCYENNFFCGNTFVCDS7QLI/
資産があるうちに事業をたたむ「あきらめ廃業」広がる  令和5年休廃業 
(桑島浩任、田村慶子)

  黒字経営を続けてきたものの、経営者が自ら事業をたたむ休廃業・解散目立っている。帝国データバンクによると、令和5年に休廃業した企業のうち、半数以上が休廃業直前の決算で最終損益が「黒字」だった。同社情報統括部の飯島大介氏は増加の背景に「資産が残っているうちに事業をたたむ『あきらめ廃業』の広がりがある」と指摘する。実際、休廃業したうち資産の額が負債の額を上回っていたのは62・3%と平成28年以降で最も高かった新型コロナウイルス禍の令和4年に次いで高かった。とはいえ特徴として、直近で業績が悪化している企業が多いという。「後継者不足に加え、新型コロナ禍での事業環境の悪化、人手不足などが積み重なり、早々にあきらめてしまう人が増えている」と話す。

  事業承継情報サイト運営などを手がけるトランビ(東京都港区)でも、現在、事業売却のサイト掲載が月間300~400件と過去最高で推移し、5年ほど前と比べると約3~4倍に急増している。黒字経営でも地方部ほど人口減による事業の先細りを肌身で感じ、子供に苦労を負わせまいと承継もできず廃業するか悩む企業は多い。
  トランビによると、伝統技能や技術なども知名度がない限り後継者を見つけるのは容易ではなく、「体が続くまでやって自分の代で終わらせてもいいという『あきらめムード』が広がっている」という。
  帝国データは令和6年も休廃業・解散が高水準で推移する可能性があるとしており、企業の休廃業による技能・技術の喪失が懸念されている。(桑島浩任、田村慶子)


2024.03.22-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240322-SGZSHCTUIFP57AEKIX6V6LRTCE/
「メガソーラー」災害リスク浮かび奈良で紛糾 ずさん設計、各地で事故も
(秋山紀浩)

  奈良県の山下真知事が防災拠点に大規模太陽光発電施設(メガソーラー)を設置する計画を打ち出し県議会が紛糾している近年はメガソーラーを巡って災害時の事故が相次ぎ、住民による反対運動も各地で頻発する。能登半島地震では土砂崩壊による感電のリスクも指摘されており、専門家は「ゼロリスクは難しくても、住民らの理解を得て計画を進めるべきだ」と指摘している。

災害時の非常用電源
  「生命や財産に関わることを軽々に決めすぎではないか」「太陽光をやれと誰かに言われたのか」。19日の県議会特別委員会で、自民県議らが山下氏に詰め寄った。
  発端は1月、県が整備を進める奈良県五條市の防災拠点にメガソーラーを設置する計画を山下氏が発表したことだ。防災拠点はもともと荒井正吾前知事が南海トラフ巨大地震に備え、災害用の2千メートル級滑走路などを整備する計画を進めていた。
  だが、昨年4月に日本維新の会公認で初当選した山下氏は、関連経費を含む事業費が約1千億円と高額だなどと指摘。滑走路を廃止し、約25ヘクタールのメガソーラーを設置することで、平時は企業などへのエネルギー供給、災害時は非常用電源として使用できるなどとメリットを強調した。
火災や感電の恐れ
  自民県議らがメガソーラー設置に反発する背景には維新系知事との対立という側面もあるが、地元住民も含め問題視するのが災害時のリスクだ。住民からは「災害で破損して有害物質が流出したら、田畑に被害が出る」といった声も上がる
  元日の能登半島地震では、石川県内のメガソーラーの少なくとも3カ所で斜面崩落などの被害を受けた可能性があることが金沢工業大の調査で判明し、経済産業省が太陽光パネルによる感電の危険性を注意喚起した。また、和歌山県すさみ町で1月中旬に起きた山火事では、設置されていた太陽光パネルが燃え、消火に4日近くかかった
  太陽光発電施設を巡る災害に詳しい山梨大の鈴木猛康名誉教授は現状では太陽光施設の構造や災害リスクなどを確認する法整備が不十分で、ずさんな設計で事故を起こす施設が各地で確認されている」と指摘する。
予算成立に暗雲も
  ただ、山下氏は太陽光発電施設の事故件数をもとに事故割合は0・08%に過ぎないとし「極めて災害リスクが低い施設だ」と説明。設置場所はほとんど平地であるため「土砂崩れや地滑りの被害を受けるような場所ではない」と主張する。
  これに対し、防災拠点整備のあり方を含め山下氏の説明に納得できない自民県議らは、今月19日の特別委員会で令和6年度当初予算案に反対し、否決となる異例の事態に。25日の本会議では予算案の修正案を提出する構えを見せる。山下氏も修正案が可決されれば審議をやり直す「再議」に付す可能性を否定していない。再議で改めて可決する場合は3分の2の賛成が必要で、修正案も否決される公算がある。
  再生可能エネルギー施設の環境影響などに詳しい東京工業大の錦澤滋雄准教授は「太陽光施設の増加とともに事故も増え、計画段階で地元の理解を得られず紛争となるケースが多い」と説明。「災害リスクをゼロにはできないが、メリットも伝え、住民の理解を促すことが大切だ」としている。(秋山紀浩)


2024.03.02-産経新聞(夕刊フジ)-https://www.sankei.com/article/20240302-OU66ULZQFJA73NUYHY2F6K3GGE/?outputType=theme_weekly-fuji
「失われた30年」克服へ 日本経済分析が専門の米国人が新著で処方箋 歳川隆雄
(ジャーナリスト 歳川隆雄)

  2月15日夜、米国人の知己リチャード・カッツ氏(ニューヨーク在住)と久しぶりに会食した。この数年間、同氏が出版に向けて全力投球してきた単行本を上梓(じょうし)し、先立つ7日に東京・丸の内の日本外国特派員協会(FCCJ)での夕食講演会に招かれて来日したのだ。
  英オックスフォード大学出版局から刊行された『The Contest for Japan’S Economic Future : Entrepreneurs vs. Corporate Giants』である。
  翻訳は今年後半に早川書房から出版される。 カッツ氏とは40年来の知己、というよりも盟友と言うべき間柄だ。同書の「謝辞」で言及されているニュースレター(月刊)「ザ・オリエンタル・エコノミスト(TOE)」の編集長がカッツ氏であり、筆者は東京支局長である。そして同氏は本書執筆のためTOEを休刊し、ブログ「ジャパン・エコノミー・ウォッチ」を立ち上げ、主たる発信場にしている。

  日本経済の分析を専門とする同氏に、「失われた30年」の日本経済再生のための処方箋を聞いてみた。本書を手に同氏が示したパラグラフには次のように記述されていた。
<グッドニュースは、日本が一世代で初めてその歴史を書き換える可能性を秘めていることです
  表面的には、経済は手に負えないほど停滞し政治はがっかりするほど無反応にみえる。しかし水面下では、市民社会の地殻変動につながる6つのメガトレンドから希望の理由が生まれています。
  これには、あらゆる種類の考えにおける世代交代、古参と新参者の間のパワーバランスを変える技術革新、ジェンダー関係の変化、人口動態の逼迫(ひっぱく)の影響、グローバリゼーションの刺激効果、低経済成長によって引き起こされる政治的ストレスなどが含まれます。
  この本が数十年前に書かれていたら、十分な規模での起業家精神の復活は夢のように思えたでしょう。これまでの企業は強すぎた。しかし、今日、メガトレンドは新しい可能性を切り拓いています>カッツ氏は、70年代のオイルショック以降、日本の指導者は社会の安定を優先して創造的破壊に手を付けなかったと言いたいのだ。加えて、その安定の要となった雇用大事とばかりに、政治家が「ゾンビ」企業の生き残りに補助金を湯水のようにバラ撒(ま)いてきた、と。
  加えて、創造的破壊の放棄は日本の成長が貧血状態にある理由だとする同氏は、日本が新自由主義のような外国のモデルを接ぎ木する必要はないとも断じる。日本社会の起業家精神を解き放つため、権力の要路を占める人たちに本書を読んでいただきたい。(ジャーナリスト 歳川隆雄)


2024.02.12-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240211-TCCV5Q3OPBOCBN6XHRPJZCPXRE/
日本企業の〝米国買い〟が活発化 鉄、住宅、化粧品…縮む日本から成長市場に布石
(宇野貴文)

  日本製鉄や積水ハウスが米国企業の巨額買収に動くなど、日本企業の対米投資が拡大している。M&A(企業の合併・買収)助言会社のレコフ(東京)によると、2023年に発表された日本企業による米企業のM&Aの件数は前年比で約2割増、金額は約3倍に膨らんだ。人口増加や株高などで堅調な消費が続く成長市場に活路を求める。国内に投資を呼び込む米国の政策に対応する必要性にも迫られている。

日鉄のUSスチール買収が押し上げ
  23年の日本企業による米企業へのM&Aは222件、金額は5兆3478億円だった。買収額を押し上げたのは、12月に米鉄鋼大手の名門、USスチールを約141億ドル(約2兆円)で買収すると発表した日鉄だ。決断の背景には「先進国では最も大きな市場で、これからさらに成長が見込める」(橋本英二社長)との認識がある。
  バイデン米政権が北米生産などを条件とする電気自動車(EV)の購入優遇策を導入したことを受け、鉄鋼メーカーの主要顧客の自動車各社がこぞって米国でEV生産の大型投資に動いており、買収によりEV向けの高級鋼板や電磁鋼板の需要を取り込む狙いだ
カゴメはトマト加工大手を買収
  消費関連のM&Aも目立つ。資生堂は12月、高級スキンケア化粧品「ドクターデニスグロススキンケア」を展開する米DDGスキンケアホールディングスを4億5千万ドルで買収すると発表。今年に入っても積水ハウスが米住宅会社MDCホールディングスを約49億ドルで、カゴメが米トマト加工大手のインゴマーパッキングを2億4300万ドルで、それぞれ買収すると決めた。
  積水ハウスは今回の買収が完了すると米国内の住宅引き渡し数が年間約1万5千戸と全米5位になる。仲井嘉浩社長は「良質な、安全な住宅を多く供給できるビルダーになれる」と、旺盛な米住宅需要の獲得に自信を示す。
労組は反対…政治的リスクも
  人口減少で需要が縮む日本から、安定した成長が続く米国への投資は今後も拡大が見込まれるが、企業買収が常に歓迎されるとは限らない。
  日鉄によるUSスチール買収には全米鉄鋼労働組合(USW)が反対し、11月の大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領が「即座に阻止する」と発言するなど米国内で政治問題化。大和総研の鈴木裕主席研究員は「日本にとって同盟国である米国での投資には政治的リスクは少ないとされていたが、そうではないことが示された」と指摘する。
  自民党の甘利明前幹事長は11日のフジテレビの番組で、民間企業同士のM&Aであることを強調。政治家の〝介入〟に対して「引いた方がいい」と、米国内での動きをけん制した。(宇野貴文)


2024.01.27-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240127-2W2RNSGOARCIZDQF7RTAE6C3X4/?outputType=theme_weekly-fuji
中国バブル崩壊の後遺症 逃避した資金が日本株に流入 田中秀臣
(上武大学教授 田中秀臣)

  日経平均株価は、年明けから上昇を繰り返し、バブル崩壊後の最高値を連日のように叩き出している。背景にあるのは、外国人投資家の大幅な買い先行である。
  他方で、岸田文雄政権「貯蓄から投資へ」の標語のもとに行った新たな少額投資非課税制度(NISA)への優遇措置はいまのところ限定的な動きでしかない。むしろ日本の個人投資家は、株の売りを強めていて、海外勢とは対照的である。岸田政権びいきの風潮が一部ではみられるが、残念ながら現状での日本株の上昇には、岸田政権はほとんど関係がない。

  岸田首相の活躍は、もっぱら震災対応や自民党の派閥解消で見られるだけである。それはそれで評価すべきだと個人的には思っているが、経済については相変わらず確固たる芯がないままだ。
  日本経済の最大の問題点は、消費の低迷にある。これを完全復活させるには、消費税減税が一番いいのだが岸田首相にとっては憲法改正並みに難しいのかもしれない。仕方がないので、次善の策の所得税減税待ちである。
  株式市場の動きで、注目すべきなのは、中国からの日本株買いの動きである。中国人観光客の「爆買い」もいまは昔の光景だが、他方で日本株への爆買いの動きがあるようだ。理由は、中国経済のデフレ化への危機感と、日本経済のインフレ化への期待だ
  中国経済の心臓部ともいえる不動産市場は、相変わらずバブル崩壊の後遺症から脱却できていない。消費も停滞したままだ。中国の公式統計では、昨年の実質国内総生産(GDP)成長率は5・2%の増加だったが、誰もこんな数字を信用していない。おそらく実態は、マイナス成長をかろうじて逃れた程度ではないだろうか
  ただ公式統計では、名目成長率が4・6%となったため、いわゆる「名実逆転」でのデフレ化を公式でも認めたことの方が注目された。
  日本のような「長期デフレ停滞」に陥るかもしれない、そう予想した中国の投資家たちが一斉に国内の投資先から逃げているかのようだ。いわゆるキャピタル・フライト(資本逃避)的な動きがみられる中国当局もこの「資本逃避」を抑えようと必死だ。中国側がお金の国外流出を抑える規制をかけたため、日経平均の上昇も一時ストップしたほどだ。
  中国では「中国経済停滞論」を唱えることが難しくなっている。いわば言論統制だ。だが、中国の投資家をごまかすことはできない。自分たちの財産がかかっているのだから当たり前だ。
  ただ日本が本当にデフレを脱却してインフレ経済化するのかどうかはまだ分からない。単に一時的な株価上昇だけでなく、国民の生活全体が潤うことが必要だ
(上武大学教授 田中秀臣)


2024.01.16-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240116-LQ3GEYMDM5M2VM4NDICK5EGHLY/
大正製薬HDのMBO成立 総額7千億円、上場廃止へ

  大正製薬ホールディングスは16日、経営陣による自社買収(MBO)を目的に行った株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。3月の臨時株主総会を経て、東京証券取引所から上場廃止となる見通し。応募した株式数は約6千万株と、発行済み株式数の約73%が集まり、買い付け予定株数の下限を超えた。総額が7千億円を超える巨額MBOとなる

  大正製薬は栄養ドリンク「リポビタンD」で知られる一般用医薬品の大手。創業家の上原茂副社長が代表を務める会社を通じ、令和5年11月27日から6年1月15日まで実施した。買収の完了後に、上原氏は大正製薬HDの社長に就任する。
  主力の大衆薬が伸び悩む中、自社通販サイトの強化や海外事業の拡大のため、構造改革や先行投資が必要となる。非上場化によって短期的な利益確保に配慮せず、中長期的な成長を目指す。


2024.01.08-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240108-PQSX5UIEKFCOPAKD4JQPRHGONA/?outputType=theme_weekly-fuji
国内経済の先行き暗く 中間層以上の中国人は日本に殺到 田村秀男
(産経新聞特別記者)

  年が明けたが、中国経済のお先が真っ暗なことは、今や中国国民の多くがよく知っている。
  習近平党総書記・国家主席不都合な真実を隠蔽する。国内総生産(GDP)など反響の大きい経済データは改竄(かいざん)疑惑がつきまとう。若者の失業率に至っては、2023年6月に21・3%を記録するや、公表をやめた
  昨年8月にノンバンク大手の中植企業集団とその傘下の中融国際投資信託が信託など金融商品の元利払い不能事態に陥ったが、金融監視監督当局は、はかばかしい収拾策を取らない。代わりに、暗躍するのは習氏直属の党規律委員会で、金融機関や党地方幹部の不正蓄財追及に血道を挙げている。当局に拘引されかけた関係者のビルからの飛び降り自殺も頻発している。海外に隠匿している資産がばれて、接収されるのを防ぐためという。
  公安警察は中植・中融の各地のオフィスに連日のように抗議で押しかける投資家を常時監視し、反政府グループをつくらないように圧力をかける。信託商品の返済を滞らせている四川省の信託会社は投資家に対し、「共同富裕の原則に従い、富裕層への元本返還は投資額の4割にとどめる」と宣告する始末だ。共同富裕とは「マルクス主義に基づく特色ある金融の発展」をうたう習氏のキャッチフレーズで、平たく言えば、金持ちに対しては約束通りの返済はしなくてもよいという意味である。
  知り合いの在日中国人によれば、中間層以上の人々の希望は一様だ。「日本でビジネスパートナーを見付けたい。会社を設立すれば、まとまったカネを持ち出せる」「東京都心の不動産を買い、母子を住まわせ、子供はインターナショナルスクールに通わせたい」といった相談が連日のように寄せられている。いわば「経済難民」だ。

  中国景気は持ち直すのだろうか。一部の西側企業は依然として中国市場の成長を信じて投資を続けている。米金利が下げ局面に転じれば、中国は金融緩和しやすくなるとか、人民元安で輸出競争力が強くなるという見方が日本ばかりでなく米欧にも根強い。
  バブル崩壊後の経済で肝心なのは財政と金融政策である。グラフは中国人民銀行の外貨資産および資金発行の前年比増減と、外貨資産の人民元資金発行に対する割合の推移である。中国金融の特徴は準ドル本位制にあり、流入するドルの量に応じて人民元資金を発行する。08年9月のリーマンショックでは米国の量的緩和政策によってドル資金が大量発行され、そのうちかなりの部分が中国に流入した人民銀行は楽々と資金発行でき、商業銀行融資を拡大させ、景気を急拡大させた。
  ところが、15年の人民元暴落不安以来、外貨の流入は止まり、金融拡大が困難になっている。21年末には不動産バブルが崩壊し始めたが、習政権は金融緩和、財政出動とも小規模にとどめ、毛沢東時代の共産主義イデオロギーを振りかざすしかないのだ。 (産経新聞特別記者)


2024.01.07-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240107-TSSI4Y4OGZHNRF7UVH3AGK4E3E/?outputType=theme_weekly-fuji
石破茂氏と枝野幸男氏に共通の経済観 緊縮財政と引き締めを重視 高橋洋一

  2023年は物価高や円安ドル高が加速し、増税や減税をめぐる議論で紛糾した。岸田文雄政権が大揺れのなかで、24年はデフレから完全脱却できるのか。実質賃金はプラスに転じるのか。そして為替や株はどうなるのか。元内閣参事官で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が、これからの日本経済を読み解いた

  岸田首相は23年11月2日の記者会見で「50兆円のデフレギャップ解消が実現した」と述べた。デフレギャップはGDPギャップとも呼ばれ、潜在的な供給力と実際の需要の差を示し、デフレ脱却の目安の一つとなっている。筆者の試算では、GDPギャップはいまだ「15兆円程度」残っている。先の臨時国会で成立した補正予算では、直接の財政支出で手当てされる「真水」はどうだったのか。今回の経済対策の閣議決定の本文に、追加歳出の財源の一部について記述されている。それらを勘案すると、真水はせいぜい10兆円程度だろう
  要するに、今回の経済対策では、GDPギャップの解消ができていない。それでは、賃金が物価上昇を上回って好循環となる、絶好の経済ポイントを示す「NAIRU(インフレを加速しない最低失業率)」を実現できない。あと一歩でNAIRUを達成できそうな水準まできているので、非常に歯がゆいところだ。
  ここで最大の懸念となるのが、今の不安定な政治状況だ。岸田政権は「レームダック(死に体)」化しており、さらなる経済対策の望みはない。また、岸田政権の官邸はすでに機能不全になっているため、日銀は事実上やりたい放題であり、金融も引き締めモードだ。そうした環境は為替市場で見透かされており、為替もこれまでの円安基調から、円高への反転模様が出始めている。せっかくいいところまできたのに、またもや逆噴射という残念な結果となりかねない。
  岸田政権24年秋の自民党総裁選までもたないだろう。3月の24年度予算成立が花道になるとも言われているなか、鍵を握るのは「ポスト岸田」だ。現時点では、全く読めないが、「岸田降ろし」が財務省主導で始まったとみられることから、ポスト岸田は財務省に好都合な政治家になる可能性がある。
  その場合、緊縮財政と金融引き締めが行われ、あと一歩の好環境を生かせずに、再び経済が低迷するかもしれない。そうなると、デフレ回帰、実質賃金もいまいち、やや円高気味、株価はさえない―となることが考えられる。一方で、政治のダイナミズムによっては、財務省に不都合な政治家がポスト岸田になる可能性もある。その場合は、完全なデフレ脱却、実質賃金プラス、やや円安傾向、株価は上昇となるだろう。
  そもそも民主党政権時代に仕組まれた2回の消費税増税と、その後の新型コロナウイルス禍がなければ、アベノミクスで経済は爆上げだったはずだ。それは、14年の8%への消費税率引き上げ直前、インフレ目標が達成目前だったことからもわかる
  逆にいうと、2回の消費増税とコロナという致命弾を食らっても、雇用だけはなんとか確保でき、日本経済沈没とならなかったのは、アベノミクスのおかげだったのだ。
  現状はそうした経済引き下げの要因はないので、好循環軌道に乗せるのはそれほど難しくない。しかしながら、財務省主導の政権になることが最大の懸念である
  ポスト岸田が、総選挙を伴う形で選ばれれば、財務省主導の色は弱くなるが、安倍派排除の自民党内の力学だけで選ばれると、財務省主導になるだろう。「政治」によって2024年の経済は決まる。

高橋洋一(たかはし・よういち)
  元内閣参事官・嘉悦大教授。1955年東京都出身。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。80年大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、米プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉純一郎内閣、第1次安倍晋三内閣で経済政策のブレーン、菅義偉内閣で内閣官房参与を務めた。ユーチューブ「高橋洋一チャンネル」の登録者数は約104万人。「『日本』の解き方」は夕刊フジで月~金曜連載中。



2023.12.30-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231230-UTOVYOIEKRKNNA2VVI4HKFHMHQ/
近鉄百貨店、卸事業に参入 売上高50億円目指す
(清水更沙)

  近鉄百貨店が卸事業に参入することが29日、分かった。同社は沿線の活性化に注力しており、地域の特産品などの販路を百貨店を通じて広げる構想を描く。高収益事業としても注目しており、令和10年度中までに50億円の売上高を目指す。
  同社の秋田拓士(たくじ)社長が産経新聞のインタビューで明らかにした。主にホテルを中心にした近鉄グループの事業者に特産品などを提供することを想定する。

  秋田氏は「グループの強みを生かし、商品を売るだけでなく、生産者や地域の零細企業をバックアップできるような態勢を構築していく」と強調した
  高収益構造への転換を目指す同社は多種類の商品を一定のテーマで同じフロアに集め、顧客の購買意欲を高める「スクランブルMD」の導入を推進している。今後はスクランブルMDで地域の特産品やSDGs(持続可能な開発目標)の価値観に沿った企業の商品を拡充する。卸事業では、こうした商品の取り扱いも計画する。
  一方、同社は農業や水産業など1次産業にも積極的に取り組んでおり、生産から販売までを自社で担う態勢を強化している。今年は大阪府河南町の休耕地を活用したイチゴづくりを収益化した。今後はマンゴーづくりにも取り組む方針で、10年度中に農業事業で10億円の売り上げを目標にしている。
  秋田氏は「水産業ではウナギの養殖に取り組むことも検討している。付加価値のある商品をいかにつくり、提供していくかが今後重要となる」と話した。(清水更沙)


2023.12.29-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231229-TXVISI3JCBAFZML55KNBIEL5VQ/?outputType=theme_weekly-fuji
マイナス金利は1月にも解除か 欧米と異なる「金融正常化」
(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

  日銀は18、19日の金融政策決定会合で、マイナス金利の解除を見送った。今後、解除のタイミングはいつごろだと考えられるか。解除した場合にどのような影響が考えられるのか。今回、金融政策は結果として変更されなかったが、ギリギリの判断だったようだ。解除を警戒していた市場参加者は肩すかしとなり、円安株高が進んだ。インフレ目標政策では、目標の数値プラスマイナス1ポイントは許容範囲だ。その上で金融引き締めは遅れてやるべきだ

  その理由は、インフレ率が2%でも4%でも社会的コストはあまり違わないが、金融引き締めを急いだ場合、景気への悪影響、とりわけ失業率上昇の社会的コストが大きいからだ。要するに、インフレ目標が2%なら、今の金融政策を継続することで近い将来にインフレ率が4%程度を超えるような状況でなければ、金融引き締めをしてはいけない。これが基本である。金融緩和解除が早すぎると、低い失業率を確保できず、結果として賃上げにつながらない
  こうした金融政策の運営は、「ビハインド・ザ・カーブ」と呼ばれているが、欧米での最近の金融引き締め局面でも実際に行われ、インフレ率が現実に4%程度より高くなるまで金融引き締めは基本的に実施されなかった。
  一方、日本で「金融正常化」という人は、こうしたマクロ経済環境を考えずに、今の状態が「異常」なので、できるだけ早く直すべきだ、という価値観が含まれていることに留意すべきだ
  今のマクロ経済環境をみると、インフレ率が近い将来4%程度より高くなる可能性は極めて小さい。にもかかわらず、金融緩和を解除したらどうなるのか。目先は金融業界に好影響だろうが、前述したようにマクロ金融政策としてはまずい
  今回、植田和男総裁率いる日銀が、こうしたインフレ目標の基本に忠実に金融引き締めを見送ったのであれば評価できるが、植田総裁の言動をみる限り、金融正常化という立場だが最近の諸情勢をかんがみて見送ったフシがある。
  つまり、今の政治情勢がガタガタの時、〝火事場泥棒〟的な行為を避けたと筆者はみている。政府と十分な意思疎通を行った上での政策変更であればいいが、今はそうした環境ではないからだ。
  植田総裁は元来、金融機関重視のスタイルであるが、決定会合後の記者会見でも言及していたように、金融機関の収益が好調であるので今回は見送ったともいえる。ただ、筆者はマイナス金利を早期解除すべきでないと考えているが、植田日銀は今後、早期に解除するとみている。
  来年の金融政策決定会合の予定は、1月22、23日、3月18、19日、4月25、26日だ。このうち「経済・物価情勢の展望(基本的見解)」は、1月23日、4月26日に公表される。
  政策変更には「基本的見解」があったほうがよく、3月は国会予算審議があり、4月は遅すぎることを考慮すると、来年1月の公算が大きい。(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)


2023.12.26-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231226-PPSOJVNOJNIN3MNA6DH4MLRP2Q/
伊藤忠社長、ビッグモーター再建構想述べる「創業家が責任を」「善意の人の雇用確保」
(田辺裕晶)

  伊藤忠商事の石井敬太社長は26日までに産経新聞のインタビューに答え、再建支援を検討している中古車販売大手ビッグモーター(BM)について「過去のビッグモーターと、再生されるビッグモーターを一度分けなければならない」と指摘した。BMの中で長年にわたりこびりついた宿痾を切り取った上で、優良資産だけを分離して別会社化を図る構想を明らかにした。BMの不正行為に対する補償対応などは創業家側が負うべきだとの考えも強調した。(田辺裕晶)

補償は引き継がず
  石井氏は「(創業家から)株式を取得する形では、BMの権利と義務を(両方)引き継いでしまう」と指摘。買収の是非や枠組みは未決定だと前置きしつつ、別会社化によりBMが負うリスクを遮断する手法は「よくある安全なパターン」だと前向きな見方を示した。
  また、一連の不正行為で被害に遭った人に対しては、創業家が「ちゃんと責任を負ってほしい」と要請。優良資産を分離した後のBMでは兼重宏行前社長ら創業家側が株式を保持し、被害者への補償対応などを行うべきだとの考えを示唆した。
土壌汚染などを精査
  伊藤忠は11月、企業再生ファンド「ジェイ・ウィル・パートナーズ」と連合を組み、BMから独占交渉権を得て資産査定に入った。石井氏はBMから譲り受ける土地が土壌汚染されていないか、建物は建築基準法に合致しているかなど、違法行為の有無を厳しく精査していると説明。仮に違法行為があった場合は〝原状回復〟の費用などをBM側に請求する方針だ
  今後は5千人いるBM社員の雇用や、企業風土の刷新が課題になる。石井氏は伊藤忠の経営理念である「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」を「受け入れられる人は(雇用を)継続したい」と強調し、BM再生に意欲を示した。

石井社長との主なやりとりは以下の通り。
  
-中古車販売大手ビッグモーター(BM)の再建支援を検討している
  「入り口のドアをノックしたら入れてもらえたという段階だ。具体的に(経営状態の)資料が出て中身が分かるのは来年になるのでそれまで話は進まない。救済・再生できるものはしたいが、レピュテーションリスク(組織の評判が悪くなる危険)は負いたくない」
-不正行為を招いた創業家の影響は遮断する
  「『こういう条件なら支援する』というコンセプトを説明し合意を得ている」
-優良資産だけ切り出して別会社化する構想だ
  「あくまでイメージだが(連合を組む)ジェイ・ウィル・パートナーズと会社をつくり(BMの)資産を買っていくかもしれない。これから発生する責任と、過去に起きたことの責任を分けたい。街路樹を切ってしまうような企業なので、法に触れるような土地や建物がないかもきちんと精査してから、獲得していく」
-BMの企業風土を刷新していく必要がある
  「善意の人もいる。〝恐怖政治〟のもとで、本当はしたくなかったことをせざるを得なかったのだろう。(不正行為を)指導してきた人は問題があるが。人を見た上で、善意の人の雇用はできるだけ確保したい」
-脱炭素に役立つ蓄電池事業に力を入れている
  「生成人工知能(AI)のようなデジタル技術が普及した世界では、電力の消費量がものすごく大きくなる。再生可能エネルギーの利用が拡大しているが、天候次第で発電できなくなるため、安定供給のために蓄電池が必要だ。今後は一つの電源として認められるようになるのではないか。エネルギー資源の約9割を海外に頼る日本では、蓄電池を上手に使うことがエネルギー安全保障の改善という観点からも重要になる」

いしい・けいた
  早大法卒。昭和58年伊藤忠商事入社。インドシナ支配人、執行役員化学品部門長、常務執行役員、専務執行役員などを経て、令和3年4月から現職。東京都出身。63歳。


2023.12.20-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231220-HYAS7WRF5NMPHHYS76O766XEII/
ダイハツ不正、経営に打撃「かなり大きな影響」 購入者・部品会社補償も
(福田涼太郎)

  ダイハツ工業が車両の安全性を確認する試験で不正をしていた問題を巡っては、国内外向け全車種の出荷停止という異例の措置がとられ、車の購入者や取引会社など影響の拡大は計り知れない状況だ。20日に記者会見した同社と親会社のトヨタ自動車のいずれも経営への打撃は避けられず、「かなり大きな影響がある」との声が漏れた。

  ダイハツが生産・販売を停止したのは全64車種に上る。うち22車種はトヨタのブランドで販売されている。出荷停止によって各方面への補償問題が生じるとみられ、対象車の納車待ちを含めた購入者への対応に加え、部品製造会社に対するフォローも進めていく必要がある
  特に取引会社は国内423社に上る。ダイハツによると、その中で47社は同社への売り上げの依存度が1割以上に達し、うち34社は中小企業であるため、同社の星加宏昌副社長は「1社ごとに相談し、補償を検討していきたい」と述べた。
  トヨタの中嶋裕樹副社長はダイハツをサポートしていくことを強調。ただ、出荷再開時期については「全く答えられる状況にない」(奥平総一郎ダイハツ社長)という。両社とも業績への影響について現段階での言及を避け、信頼回復を最優先に据えることを訴えたが、星加氏は「かなり大きな影響があると思う」と漏らした。
(福田涼太郎)


2023.12.06-読売新聞-https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231206-OYT1T50240/
東宝が東京楽天地にTOB…買収総額300億円、完全子会社化し連携強化へ

  東宝は6日、映画館運営の「東京楽天地」に対し、株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。映画興行や不動産賃貸といった事業での連携を強化し、収益向上を図る。東京楽天地は同日の取締役会で、TOBへの賛同を決議した。買収総額は約300億円となる見込み

  東宝は、子会社の持ち分も含めて東京楽天地株を約23%保有しており、TOBを通じて完全子会社化することを目指す。東京楽天地は東京都内を中心とした不動産賃貸事業のほか、映画館事業も手がける。TOBが成立すれば、東京証券取引所プライム市場への上場は廃止となる見通し。
  買い付け価格は1株あたり6720円で、期間は7日から来年1月24日までの予定


2023.12.01-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231201-WGLXTJBGJ5K5TN57FUQX3HXHGI/
中高一貫校「広尾学園」運営法人が女性講師に賃金未払い 労基署が是正勧告

  東京都港区の広尾学園中学・高校を運営する学校法人が、非常勤講師の60代女性に対し未払い賃金があるとして、三田労働基準監督署(港区)から是正勧告を受けたことが1日、分かった。女性が加入する「私学教員ユニオン」が記者会見し明らかにした。

  ユニオンによると、女性は授業1回につき、30分の付随業務があるとの算定で賃金を受け取っていたが、授業の準備や試験の採点などに追われ、頻繁に時間外労働をしていた。昨年4月~今年2月の未払い賃金は100万円以上と主張し、労基署に申告した。
  是正勧告は11月20日付で、他にもタイムカードの廃止により労働時間が把握できていなかった点などを指摘した。学校法人側は、未払い賃金の一部を支払う意向を示しているという。


2023.12.01-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20231201-YM6YSULKFZIJBMPCGEQU4HJBGY/
浦島観光ホテル、全株式を売却 投資会社が「ホテル浦島」など事業承継

  那智勝浦町など県南部でホテルや旅館を経営する「浦島観光ホテル」(三重県紀宝町)は1日、地方創生へ投資や支援を行う「日本共創プラットフォーム」(JPiX、東京)に全株式を売却すると発表した。JPiXがホテルや旅館の経営を引き継いで強化し、観光産業を中心に県南部の活性化を目指す

  同日、和歌山市内で同社の成田安弘社長やJPiXの冨山和彦社長らが記者会見し、11月22日付で株式譲渡契約を締結したと明らかにした。年内で成田社長ら現経営陣の一部が退任し、JPiXが新メンバーを派遣して新体制を構築するという。
  浦島観光ホテルは昭和31年創業。那智勝浦町のリゾートホテル「ホテル浦島」をはじめ田辺市本宮町地区の温泉旅館「山水館 川湯みどりや」など南紀勝浦エリアで4つの宿泊施設を経営し、同エリアの観光産業の中核を担ってきた
  会見に同席した西川正修副社長によると、創業から70年近くが経過し、老朽化した施設の設備投資などを見据える中で、数年前から事業の在り方が検討課題になっていたと説明。観光業を取り巻く環境の変化に対応するため、事業を託す経営の専門家を探し、メインバンクの紀陽銀行からJPiXを紹介されたという。
  県出身のJPiXの冨山社長は会見で「那智勝浦地域は大きなポテンシャルがあり、地方から日本の良さを海外にアピールする先行事例になる」と語った。また、浦島観光ホテルの成田社長は「次の世代の浦島観光ホテルを目指す新たな挑戦ととらえている」と、経営再建ではなく事業承継が目的だと強調した。
  JPiXは、南紀白浜空港(白浜町)の運営を担うなど、全国で地域活性化へ取り組んでいる。こうした実績などを重視し、JPiXへの事業承継に至った。冨山社長は南紀白浜空港との連携や、海外の富裕層をターゲットにするなどの構想を語った。







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