梅毒-1


2024.01.23-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240123-UXMWJ5NM2ROCVMR2NDD3OO2E7I/
梅毒感染が最多 検査と治療で拡大を防げ

  性感染症である梅毒の患者が急速に増えている。 令和5年の感染者数(暫定速報値)は1万4906人と、現在の調査方法で統計を取り始めた平成11年以降で最多となった。 24年までは年1千人以下だったが、ここ10年ほどで一気に増加した。令和3年以降は特に顕著で、初の1万人超えとなった4年に続いて5年も大幅に伸びた放置すれば数年から数十年後に心臓や脳に重い症状が出るそれが蔓延(まんえん)する危機意識を社会全体で共有したい。政府は予防や検査、治療の徹底を促す対策に万全を期すべきである。

  梅毒は、主に性行為で感染する。感染力が強く、口腔(こうくう)性交でも感染する。早期の検査で見つけて治療することが大切だ。感染が見つかれば、パートナーにも検査を求める必要がある。
  何よりもリスクが高いのは不特定多数との性的接触だ。感染者の年齢層は男性が20~50代と幅広く、女性は20代が突出している。性風俗関連での感染もあるが、それだけではない
  最近はマッチングアプリで見知らぬ者同士が出会い、性的関係に発展することが容易になった若い女性が路上で売春の客待ちをする「立ちんぼ」も社会問題化している。こうした環境変化が梅毒急増の土壌になっている可能性はないか。
  梅毒は現在、世界的にも増加傾向にある。訪日する外国人客も多い時代になった。相手が日本人か外国人かを問わず、不特定多数との性行為は危険だ。

  感染初期には体のしこりや皮膚や粘膜の発疹が出る。これらは治療しなくても消えるが、当然、治癒したわけではない。潜伏期と症状のある時期は交互に現れる。潜伏期に自覚なく感染を広げることに注意したい。治癒が確認できるまで継続して受診することが重要である。
  妊婦の感染が胎児にうつる先天梅毒も防がなくてはならない。死産や早産のリスクが高まり、子供の神経や骨に異常を来すこともある。昨年は10月時点で30人以上が確認された
  妊婦健診には梅毒のスクリーニング検査もある妊娠初期に見つけて治療すれば胎児への感染リスクを低減できる。妊娠を希望するカップルで、過去に感染した可能性があるような場合には、妊娠前に検査を受けることも考えておきたい。



2022.11.01-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221101/k10013876801000.html
【詳しく】性感染症の梅毒 初の1万人超 症状は?感染経路は?

  コンドームをつけない性行為だけでなく、オーラルセックスやキスで感染することもある性感染症の梅毒。その感染者が初めて1万人を超えました。性風俗産業の利用・従事にかかわらず、かかるリスクがあります。
  一体どんな病気?検査や治療法は?専門家に詳しく話を聞きました。

  国立感染症研究所によりますと、全国から報告された梅毒の感染者数は、10月23日までに1万141人となり、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、初めて1万人を超えました。去年の同じ時期の1.7倍で、大幅な増加が続いています。今回、取材に応じてくれたのは、「プライベートケアクリニック東京」の院長を務める、尾上泰彦医師です。
  尾上医師のクリニックでは、去年1年間でおよそ260人の梅毒の患者の治療にあたりました。尾上医師のクリニックでも梅毒の患者が1.5倍ほどに増えていると言います。(以下、尾上医師の話です
Q. 感染すると、どんな症状が?-梅毒に感染すると、通常、3週間から6週間程度の潜伏期間を経てから最初の症状が出てきます。ただ、症状が出ない人もいるほか、症状が出てもすぐに消えてしまう人もいます。このため、感染していることに気付かないうちに、病気が進行することがあります。
  日本性感染症学会のガイドラインなどによりますと、梅毒は大きく3つの段階を経て進行します。
Q. 3つの時期とは?-感染から1年未満の梅毒は「早期梅毒」と言って、性的接触での感染力が強いとされています。

【第1期】感染から1か月程度たった時期-原因となる細菌が入り込んだ場所を中心に、3ミリから3センチほどの腫れや潰瘍ができます。この症状は数週間で消えてしまうことがありますが、梅毒が治ったわけではありません。痛みやかゆみを感じることはほとんどないとされています。
【第2期】感染から1~3か月程度たった時期-細菌が血液によって全身に運ばれるため、手や足など全身に赤い発疹が現れることがあり、発疹がバラの花の形に似ているとして「バラ疹」と呼ばれています。
  このほか、発熱やけん怠感など、さまざまな症状が出ることがあります。この段階でも、症状が自然に消えることがありますが、梅毒が治ったわけではありません。
【第3期】感染から3年程度たって以降-感染から1年以上たった梅毒は、「後期梅毒」と言って、性的接触での感染力はないとされていますが、臓器などに深刻な症状が出ることがあります。
  全身で炎症が起こり、骨や臓器に「ゴム腫」と呼ばれるゴムのような腫瘍ができることがあるほか、治療薬が普及していない時代は、大きなできものができたり、鼻がかけたりすることがありました。
  さらに進行すると、脳や心臓、血管に症状が現れ、まひが起きたり、動脈りゅうの症状が出たりすることがあります。治療をせずに放置すると、第3期のような深刻な症状につながるので、早期に発見することが大事です。
Q. 特に注意するべき人は?
  注意してほしいのは妊娠中の女性です。妊婦が感染した場合、流産や死産のリスクが高まるとされています。
  研究データでは、感染した妊婦自身の治療を行っても、2割程度のケースで母子感染が起こり、赤ちゃんが梅毒に感染した状態で生まれる先天梅毒」になることが分かっています。
  先天梅毒では、生まれて間もない時期に発疹や、骨に異常が出ることがあるほか、乳幼児の間は症状がなくても数年後に目の炎症や難聴などの症状が出ることがあります。
Q. 痛みは?かゆみは?
  梅毒には、他の病気に似たさまざまな症状が出ることが多いのですが、痛みやかゆみがなく気づかなかったり、そもそも症状が出なかったりすることもあり偽装の達人」とも称されます。
  そのため早期に発見できず、気がつかないまま進行してしまうことがあります。
  症状の写真を見ると(写真はここをクリックしてね)、発疹が出たり潰瘍ができたりしして、痛々しく見えますが、実際には痛みやかゆみを感じることは少ないのです。
  また、のどの奥や性器の内側に症状が出ている場合、患者自身でも気がつかないこともあります。
Q. 原因は?
  梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因で、主に性行為で感染が広がります。コンドームをつけずに性行為をするとリスクが高まりますが、オーラルセックスやキスで感染することもあります。
  また、コンドームをつけていても、感染者の粘膜や傷のある皮膚に直接触れると感染することがあるので、注意が必要です。
【データ:性風俗産業の利用歴・従事歴ない人も】
  国立感染症研究所が、ことし10月2日までに報告された感染者数をまとめたところ、男性が6167人、女性が3144人で、男性のほうが多くなっています。年代別に見ると、女性は20代と30代が75%を占めていて、特に20代前半が多くなっています。
  一方、男性は20代から60代以上まで幅広い年齢層に広がっています。また、男性では性風俗産業の利用歴のある人が、女性では従事歴のある人が感染者の4割近くを占めていますが、利用歴のない男性や従事歴のない女性も3割程度います。
Q どんなときに感染?
  性風俗産業を介して感染すると思いがちですが、自分自身に思い当たる節がなくても、パートナーから感染してしまうケースもあるので、ひと事と思わず注意することが大事です。
  また、最近の診療経験からは、マッチングアプリやSNSを介した出会いを通じて、不特定多数の人と性行為して感染する人もいます
Q 治療法は?
  梅毒は治療法が確立していて、きちんと治療を受ければ治すことができます。日本で多く使われているのは抗菌薬の飲み薬です。一定の期間、薬を飲み続けることで治療できます。途中で症状がおさまったとしても、自己判断で「治った」と考えずに、決められた期間、しっかり薬を飲み続けることが大切です
  また、1回注射するだけで効果がある新たな治療薬も去年、承認され、ことしから使われ始めています。薬を飲み続けなくてもいいことから、治療がより簡単になると期待されています。
Q 感染しているかも…と思ったら?
  パートナー以外の人と性的な接触をするなど、感染の心配がある行為をしたのであれば、検査を受けに行きましょう。ただ、注意しなくてはいけないのは、感染した直後だと、検査でわからないケースがあることです。
  感染から6週間たっているとほぼ確実に感染の有無が判定できるようになるので、リスクのある性行為がいつだったのか、確認しておくとよいでしょう。

  検査方法は血液検査が一般的です。医療機関を受診するほか、自治体の保健所などで検査を受けることもできます。例えば東京都では、新宿などにある検査・相談室や保健所で、匿名かつ無料で検査を受けることができます。
  通常の検査では次の日に、即日検査の場合は20分から30分で結果が分かります。感染がわかればすぐに治療に移ることができるので、まずは検査をすることがいちばん重要です。
Q 予防するには?
  梅毒の患者はこの10年で最も多い水準になっていて、社会全体で心配するべき状態になっていると思います。予防としては、まず不特定多数の人との性的な接触を避けること、それにコンドームを使うことが重要です。
  しかし、コンドームだけでは100%防げませんし、スキンシップを含めて、どのような状況で感染するか分かりません。大事な人を感染から守るためにも、新しくパートナーができたときや、結婚するとき、子どもを作るときといった、人生の節目に検査を受ける「節目検診」も考えてみてください。


2022.07.13-MBS NEWS -https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2022/07/089955.shtml
【解説】「梅毒」過去最悪のペースで流行...コロナ禍の非接触時代になぜ?性風俗との関係は?「キスでもうつる可能性ある」

  大阪や全国で去年から2倍ペースで増えている「梅毒患者」性行為での粘膜や皮膚の接触で感染するもので、症状はいったん納まりますが、長期間潜伏した状態が続き、放置すると脳や心臓に深刻な影響を及ぼすといいます。コロナ禍で人との接触が制限されている中、大阪では特に『20代の若い女性の患者』が増えているといいます。大阪公立大学大学院・城戸康年教授は「HIVより梅毒の方が感染力は強い。キスでもうつる可能性はある」として注意を呼び掛けています。

(2022年7月13日 MBSテレビ「よんチャンTV」より)


梅毒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


  梅毒(ばいどく、Syphilis。黴毒瘡毒(そうどく)とも)は、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマによって発生する感染症で、性感染症(性病)の一つ

概要
  第一感染経路は性行為であるため性感染症の一つとして数えられるものの、母子感染の場合は先天性梅毒である。
  梅毒の第1期の感染部位にできる塊という徴候や以降の症状は、4段階でそれぞれ大きく異なる。
  第2期以降性器や全身の皮膚の特徴的な薔薇模様で知られる。恐ろしいところは3週間後、3ヵ月後、3年後等各期ごとに、治療を受けないと自然完治と誤解するような潜伏期を3度挟みながら、更に悪化した病状が発現していき、最終的に死に至るところである。

  症状が出ていない期間も感染力を持ち、体内は悪化の一途を辿っており、治療法は医師から完治診断を受けるまでペニシリン系のアモキシシリンを摂取することのみである。
  1999年に全世界で推定1200万人が新規感染したと考えられており、その90%以上は発展途上国での感染であった。1940年代のペニシリンの普及以降、特効薬が開発されたことで第3期・第4期発症および死亡は劇的に減少した。
  しかし、2000年以降、乱交売春コンドーム不使用、不特定多数と性的行為をする低い貞操観念の持ち主の増加に起因する感染が多くの国々で増加しつつある。感染すると他の性病にもかかりやすくなるため、ヒト免疫不全ウイルスと併発するケースが度々ある。先進国では風俗通いを含む不特定多数と肉体関係を持つ男性が感染の中心であったが、20-30代女性の感染増加にある。
  梅毒感染中の妊婦から胎盤を通じて胎児が梅毒持ちで産まれる先天梅毒は流産・死産・早産などの原因となるほか、出産自体は成功しても乳幼児期・学童期の内臓・目・耳などの異常が心配される。
  予防に有効なワクチンは存在せず、ペニシリン系の抗菌薬の投与により治癒自体はするが免疫は獲得できず、梅毒トレポネーマに再び罹患した場合は再感染する。in vitroでの培養は不可能であり、病原性の機構はほとんど解明されていない。1998年には全ゲノムDNA配列が決定、公開されている。
疫学
  日本における感染者は、2010年頃より増加している。2015年は2014年を上回り、2017年には11月19日までの速報値で5,053人の感染者が国立感染症研究所により報告された。5,000人を超えるのは1973年以来44年ぶりであった。
  2018年の患者報告数は6923人(暫定値)で、現行の集計方法が採用された1999年以降では最多となった。結局、2018年の患者数は7007人となり、2019~2020年は減少したものの、2021年は7875人で過去最多を更新し、診断例の激減で一時言われた「幽霊病」から通常の性病になってしまっている。
  1948年以降は大きく減少していたが、1967年、1972年、1999年、2008年に小流行を起こした。2010年までは500例から800例で(人口10万当たり発生率は0.4 - 0.6程度)推移していたが、2012年以降は増加に転じ、2013年には1,226例、2014年には1275例が報告され、人口10万当たり発生率は 0.96 と上昇している。また感染者の約8割は男性で、男性の人口10万当たり発生率は1.6である。なお、様々な診療科で鑑別診断が行われず、梅毒患者が見逃されていることを指摘する医師もいる。

  欧州疾病対策センターが2019年7月にまとめた報告によると、欧州連合加盟国を中心に、31カ国における梅毒の報告数は、2017年時点で33,000人を超え、10年前との比較で7割増えた。アメリカ合衆国では、2001年頃に減少傾向が増加傾向に転じた。2022年も増加傾向は止まっておらず、過去最悪ペースでの増加が報告された。
臨床像
  1978から1999年に東京都多摩地区で行われた健康な人を対象とした抗原検査結果によれば、45,614例中1,017例 (2.23%) が脂質抗原検査陽性で、このうちTPHA法、FTA-ABS法によるトレポネーマ抗体の検査陽性は、639例(1.40%)。陽性率はおおむね1から2%の間で推移し、梅毒の潜在的な感染例は減少していない。また、陽性例中の493例(約77%)は60歳以上であった。
病原体
細菌学(詳細は「梅毒トレポネーマ」を参照)
  梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の特徴は螺旋状形態、グラム陰性であり、活発に運動する。自然界における唯一の宿主ヒトである。宿主がいなければ数日も生きられない。これはそのゲノムサイズが小さく(1.14 MDa)、主要栄養素の合成に必要な代謝経路の遺伝子が欠落しているためである。このため、倍加時間は遅く、30時間以上掛かる。
  梅毒トレポネーマの近縁種もまた、3つの病気の原因となる。それぞれ、イチゴ腫フランベジア)は亜種 ピンタは亜種 ベジェルは亜種が原因である。これら近縁種は、梅毒トレポネーマとは異なり、神経疾患を引き起こさない。
感染経路
  主に性行為オーラルセックスキスにより、生殖器肛門から感染、皮膚粘膜の微細な傷口から侵入し、進行によって血液内に進む。米国における新規症例の感染経路は、男性同士の性行為が半数以上を占める。
  これ以外にも母子感染輸血血液を介した感染もある。母子感染の場合、子供は先天梅毒となる。血液製剤については、多くの国々で検査が行われるため、感染経路となるリスクは小さい。この病原体は体外に排出されると急速に死ぬことから、物を介した感染は難しく、日常生活における、食器や衣類の共有、トイレの便座、入浴からの感染は不可能である。

  日本でも、2012年には男性同士の性交渉が原因と推測される感染例が最も多く報告されていたが、2012~2016年にかけて報告されたデータからは、男女間の性交渉による感染が急激に増加していた。この傾向は先進国においては報告されておらず、世界的には特殊である。男性は25~29歳、女性は20~24歳の感染者が多い。若い女性に感染が広がるのと同時に、「先天性梅毒」の赤ちゃんの出生も増加した

症状
  症状は4段階で観察され、先天性での発症も起こる。その多様な症例から、ウイリアム・オスラーから偽装の達人 ("the great imitator") と呼ばれた。例えば皮膚症状以外の症状として、「頭痛脳腫瘍(の疑い)」「認知症」「飛蚊症・霧視」「ラムゼイ・ハント症候群(の疑い)」「難聴」「大動脈瘤破裂」「左側腹部痛」「胃潰瘍(の疑い)」「急性肝炎」「ネフローゼ」「悪性リンパ腫(の疑い)」などが報告されている。
  第1期と第2期が感染しやすく、感染後約1週間から13週間で発症する。現代においては先進国では、抗生物質の発達により、第3期、第4期に進行することはほとんどなく、死亡する例は稀である。第1期梅毒の最初の数週間は抗体発生前で、検査において陽性を示さない。また、第1期と第2期の症状が全く出ないこともあるので、注意が必要である。
第1期
  感染後3週間 - 3か月の状態。トレポネーマが侵入した部位(陰部、口唇部、口腔内)に塊(無痛性の硬結でを出すようになり、これを硬性下疳と言う)を生じる。塊はすぐ消えるが、稀に潰瘍となる。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れ、これを横痃(おうげん)という。6週間を超えるとワッセルマン反応等の梅毒検査で陽性反応が出るようになる。
第2期
  感染後3か月 - 3年の状態。全身のリンパ節が腫れる他に、発熱、倦怠感、関節痛などの症状がでる場合がある。バラ疹と呼ばれる特徴的な全身性発疹が現れることがある。赤い目立つ発疹が手足の裏から全身に広がり、顔面にも現れる。特に手掌、足底に小さい紅斑が多発し、皮がめくれた場合は特徴的である。治療しなくても1か月で消失するが、抗生物質で治療しない限りトレポネーマは体内に残っている。
潜伏期
  前期潜伏期:第2期の症状が消えるとともに始まる。潜伏期が始まってからの2年から3年間は、第2期の症状を再発する場合がある。
後期潜伏期:不顕性感染の期間で数年から数十年経過する場合もあるが、この期間は感染力を持たない。
第3期
  感染後3 - 10年の状態。皮膚や筋肉などにゴムのような腫瘍ゴム腫)が発生する。(医療の発達した現代では、このような症例をみることは稀である)
第4期
  感染後10年以降の状態。多くの臓器に腫瘍が発生したり、脳、脊髄神経を侵されて麻痺性痴呆、脊髄瘻を起こしたりして(脳(脊髄)梅毒、脳梅)、死亡する。現在は稀である。日本の江戸時代に相当する遺跡からは、梅毒に罹患していた第3期以降の所見を持つ人骨が出土している。
初期梅毒の感染性
  Schober PC(英国)らは、梅毒の感染性という論文で、初期の梅毒患者のパートナーを精査した。ホモセクシュアルでは49%、ヘテロセクシュアルでは58%が感染していたという結論である。このYear Book の編集者は全員に感染しないのは、露出の程度が異なるからだろうとコメントした。
先天梅毒
  先天梅毒は、妊娠中胎盤を通じ、または出産時に産道を介して感染する症例である。感染した幼児の23は症状が現れない状態で産まれてくる。 早期先天梅毒の発生は生下時から生後3カ月で、一般的に、肝臓脾臓の増大、発疹、発熱、神経梅毒肺炎といった症状が現れる。治療がなされない場合、鞍鼻変形ヒグメナキス徴候剣状脛クラットン関節といわれる後期先天性梅毒の症状が現れる。
予防
  性感染症である梅毒は、性交や性交類似行為をしない(NO SEX)、不特定多数(その中に感染者が含まれている確率がゼロではないため)との性行為の自粛、またコンドームの着用により、病原菌の人体間の移動を阻止することで、感染を防ぐことが可能である(参考:セーファーセックス)。無論100%回避できるわけではなく、またキスによる感染、オーラルセックスでの感染は防ぐことができない。
検査
  STS (Serologic test for syphilis)(ウシ脂質抗原を使う、ガラス板法、RPR、カード法、緒方法、定量法がある)と梅毒トレポネーマ抗原を使うもの(TPHA法、FTA-ABS法)の2種ある。
   ・注意すべきことは、STSは治療後陰性化するが、TPHAは陰性化しない。感染直後はIgMを使うFTA-ABSが陽性になる。
   ・STS陽性でも、生物学的偽陽性(他の疾患で陽性になる)があり、TPHA陽性でも治療が必要ない場合もあり、主治医によく判定を求めること。High responderもある。十分治療した場合、普通その後の治療は必要ない。
   ・男性の場合は泌尿器科性病科皮膚科女性の場合は産婦人科、皮膚科、性病科を受診。
   ・患者に伝染させたと思われる人も、梅毒の検査とエイズの検査を受けるべきである。保健所であれば無料、かつ匿名で検査が行える。
治療
  日本国外ではペニシリンGの筋肉内注射(筋注)単回投与が基本であるが、日本国内ではペニシリンGが副作用の懸念から使用中止されたため、原則使用できず、他のペニシリン系の抗菌薬を複数回投与して治療を行われてきた。2021年9月27日、神経梅毒以外の梅毒を適応症とした、ファイザーの持続性ペニシリン製剤、ベンジルペニシリンベンザチン水和物(商品名ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ、同水性懸濁筋注240万単位シリンジ)が薬事承認、11月27日に薬価収載され、2022年1月26日より販売が開始された。
  キノロン系抗菌薬は用いられない。投与期間は第1期で2 - 4週間、第2期では4 - 8週間、第3期以降は8 - 12週間。ただし、ペニシリン系抗菌薬に対してアレルギーがあるなどといった理由で使用不能の場合などは、梅毒トレポネーマに対して静菌的に作用する抗菌薬ながら、テトラサイクリン系ミノサイクリンや、マクロライド系アセチルスピラマイシンなどを使用する。
  ペニシリン耐性は無いとされているが、マクロライド耐性が報告されている。胎児(母体)に対し、エリスロマイシンを使用した場合には、新生児は出産後改めて治療する必要がある。なお、感染してから1年以内の梅毒を治療した場合、治療初期に38度台の高熱が出ることがある(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)。菌が一気に死滅するための反応熱であり、初回治療の場合は、病院でしばらく観察する必要がある。かつて、クロラムフェニコールが使用されたが、副作用が強いため現在では使用されない。
かつての療法
  現在では使用されない治療法として、ヨードチンキ水銀製剤、蒼鉛製剤などが存在した。例えば16世紀ヨーロッパでは水銀蒸気の吸入や水銀軟膏の塗抹などによる水銀療法が用いられた。これにより多くの水銀中毒が出たため、水銀療法肯定派(mercurialist)と否定派の間での論争が行われた。
  梅毒の水銀療法はや日本でも行われ、日本では杉田玄白シーボルトらが記載している。水銀療法によって水銀中毒となった者には土茯苓を服用させ、解毒を試みた。
  ヒ素剤であるサルバルサンは1910年に発見され、副作用も強かったが「魔法の弾丸」ともてはやされて1940年代まで使われていた。
  変わったものでは、高熱に弱い梅毒トレポネーマの性質を利用して、梅毒患者を意図的にマラリアに感染させて高熱を出させ、体内の梅毒トレポネーマの死滅を確認した後にキニーネを投与してマラリア原虫を死滅させるという荒っぽい療法も行われていた。この治療法はサルバルサンの効かない第4期患者にも有効であったため、最後の手段として用いられていた。ただし、この療法も危険度が高いため、抗生物質が普及した現在では行われていない。
歴史
ヨーロッパ(ヨーロッパにおける歴史については「梅毒の歴史」を参照)
  梅毒が歴史上に突発的に現れたのは15世紀末であり、そのため本病の由来については諸説ある。
   ・旧世界ヨーロッパアジアアフリカなど)に15世紀以前から存在していたとする説。古い法令に梅毒に関するものがあるなどとするが、本病による病変を示す人骨などの具体的資料は確認されず、支持者はほとんどいない。
   ・旧世界に古くから症状が非常に軽い状態で存在したとする説。現在でも熱帯地方を中心に、皮膚に白斑が生じる程度の「ピンタ」、潰瘍を生じる「ヨーズ」など軽症のものがあるが、これらは梅毒トレポネーマにより起こることから、旧石器時代にピンタかヨーズが発生し、15世紀末にヨーロッパでトレポネーマに変異が起きて梅毒が生じたとする。
   ・新世界からコロンブス交換でヨーロッパへ持ち込まれ、以後、世界に蔓延したとする説。コロンブスの帰国から梅毒の初発までの期間が短いという難点があるが、アメリカ大陸でも古い原住民の骨に梅毒の症状が見られ、また日本でもコロンブス以前の人骨には梅毒による病変が全く見られないなど、最も有力な説とされている。
   ・旧ソビエト連邦の学者により唱えられた説では、梅毒はアメリカ大陸起源ではあるが、ベーリング海峡を渡ってシベリア経由でヨーロッパに入ったとするものもある。ベーリング海峡を通して両地域の住民の交流があったためである。
  1494年からのイタリア戦争で、フランス軍傭兵にスペイン人がおり、そこからフランス軍がイタリアに進駐すると、ナポリで梅毒が流行し、フランス人は「ナポリ病」、イタリア人は「フランス病」と呼びあった。ルネサンス時代は戦乱に明け暮れていた時代でもあり、売春が隆盛をきわめていた。
中国
  1500年頃に流行した。『本草綱目』には「楊梅瘡」および「楊梅毒瘡」の名で現れ、「弘治正徳の間に広まった」「近年、好淫の人は多くこの病気にかかる」「古くはこの病気はなかったが、嶺表(広東)から四方に広まった」などの記述が見られる。
琉球王国
  日本で流行する前に琉球王国、特にその花柳界で大流行した。琉球花柳界においては、梅毒患者のことを“ふるっちゅ”(古くからいる人)と呼び、古血(ふるじ)は梅毒を意味する言葉となった。
日本
  日本では1512年に初めて文献記録上に登場している。当時は大航海時代であり、コロンブスによるヨーロッパへの伝播から、わずか20年でほぼ地球を一周したことになる。
  戦国時代から江戸時代初期の著名人では、加藤清正結城秀康前田利長浅野幸長などが梅毒で死亡したとみられている。本病が性感染症であることは古くから経験的に知られ、徳川家康遊女に接することを自ら戒めていた。江戸の一般庶民への梅毒感染率は実に50%であったとも推測される。
  抗生物質のない時代には確実な治療法はなく、多くの死者を出した。慢性化して障害を抱えたまま苦しむ者も多かったが、ペニシリンなどの抗生物質が発見され、現在では早期に治療すれば全快する。

  昔は鼻部の軟骨炎のために鞍鼻(あんび)や鼻の欠損になることがあり、夜鷹などには「鼻欠け」が多かったので、「鷹の名にお花お千代はきついこと」などと川柳に詠われた。“お花お千代”は“お鼻落ちよ”にかかっている。
  同様の症状を呈するハンセン病と同一視されていた時期があり、ハンセン病を患ったダミアン神父は、梅毒と誤認されて姦通の嫌疑を受けた。
  日本語の「梅毒」という呼称については、この病気によって生じる瘡が楊梅(ヤマモモ)の果実に似ていたため「楊梅瘡」と呼ばれていて、これが時代とともに変化したとする説がある。」
  日本が開国した幕末期、長崎の稲佐の地に丸山町と寄合町遊女が出張して、ロシア人の船員達の相手を務めることになった。この際、ロシア帝国の海将ニコライ・ビリリョフは遊女の梅毒検査を行うことを要求した。長崎奉行岡部長常長崎海軍伝習所松本良順に対応を諮問し、良順はこれを受けるべきと回答した。これにより、万延元年(1860年)、日本初の梅毒検査が長崎で実施された。

タスキギー実験(詳細は「タスキギー梅毒実験」を参照)
  タスキギー梅毒実験は、1932年から1972年にかけて、アメリカ合衆国アラバマ州タスキギー黒人梅毒患者を対象に行われた人体実験である。600人の被験者が参加しており、うち400人は告知されることなく梅毒に感染させられ、治療されないまま経過観察と死後の生体解剖の対象となった。この実験は、1941年にペニシリンの有効性が確認されて以降も継続された。被験者の多くは教育水準の低い貧しい小作人であり、温かい昼食や移動費、埋葬費用などの見返りにより集められていた。
  1972年に実験の存在が発覚すると、人権を無視した人体実験であるとして、連邦議会に調査委員会が設置された。この時設置された「タスキーギ梅毒研究特別委員会」は、1973年の最終報告書において、この実験は「反倫理的で正当化できない行為」であるとしている。
  その後、1997年5月16日、当時の大統領であるビル・クリントンより、「非人間的で残酷極まりない間違った行動」であったと正式に謝罪がなされた







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