"イカ・ゲ-ム"とは-問題



2021.10.28-Yahoo!Japanニュース(現代ビジネス)-https://news.yahoo.co.jp/articles/c5a41392bb50e2926f2db91a540afd49386c74ba
【ネタバレあり】韓国人YouTuber解説、知るとよりハマる『イカゲーム』の韓国事情
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  世界中でランキング1位を記録し、すでに1.4億視聴を越えたというNetflix配信の『イカゲーム』。これはNetflix過去一の記録だという。 「単なるデスゲーム」 「いや、世の中の縮図を象徴している」 など、さまざまな意見や考察などが今も続き、イカフィーバーは留まるところを知らない。
  この現象、現地韓国ではどのようにとらえられているのだろうか? さらに、「これを知っておくと『イカゲーム』がもっとおもしろくなる」というポイントを、独自の視点で韓国情報を伝える『韓国人YouTuber JIN(仁)』さんに、詳しく伺ってみることに! 
【イカゲームとは? 】
  定職もなく、借金だらけの47歳のソン・ギフン(イ・ジョンジェ)。妻とも別れ、娘とも会うことはままならない。娘の誕生日のプレゼントを買うために、年老いた母親のお金に手を出すが、結局はギャンブルにつぎ込み、そのお金も盗まれてしまう。何をやってもうまくいかない。
  そんなとき、地下鉄のホームでスーツ姿の謎の男から名刺を渡される。勝てば大金が入るという「イカゲーム」への勧誘だったのだ。疑心暗鬼ながらも借金だらけのギフンはそのゲームに参加することになる。
  目隠しをされ、どこに連れてこられたのかもわからぬまま緑のジャージに着替えさせられた参加者は456名。老若男女の参加者の中には、ソウル大学出のエリート証券マンの幼なじみ、チョ・サンウ(パク・ヘス)もいた。 そして、第一のゲームは突然開始された-----。
   ゲームは昔懐かしい子ども時代の遊びをモチーフにしていて、全部で6つ。すべてクリアすれば456億ウォン(約43億円)を入手できる。しかし、それは「最後まで残る人が勝者となること」を意味していた……。
実際、韓国ではどんな評判なの?
  韓国の今朝のニュースでも、相変わらず『イカゲーム(韓国語ではオジンオゲーム)』の話題が出ていました。今や芸能人のみならず、政治家もこの作品のことを口にしています。
   ただ、韓国で『イカゲーム』が最初からバズっていたかと言われると、そうではありません。Netflixで配信が始まった時は「『バトル・ロワイアル』みたいなデスゲームだけど、お互いに助け合うあたりがちょっと違うんだね」とか「さほど製作費はかかっていなさそうだし、そんなに出来がいいわけでもないかな」といった感じで賛否両論でした。
   ところが世界中で大ヒットするや「やっぱりよく観たらいろいろすごいよね!」と、世論は一気に手のひら返しに(笑)。今や韓国では「『イカゲーム』を批判するなんてとんでもない」という雰囲気になっています。誰かが考察をすると、「いやいや、それは違う、こうだろう」とみんなが『イカゲーム』のことを話して、何でも『イカゲーム』に結び付けてしまう感じですね。
   『イカゲーム』で、主人公のソン・ギフンを演じているのはイ・ジョンジェ。映画への出演が多く、普段はビシッとしたスーツ姿でカッコイイ役を演じている人気俳優です。彼が今回のように、ろくに働かず、老いた母親のお金をくすねてギャンブルをするようなダメ人間を演じるのは本当に珍しい。
  多くの韓国人は、イ・ジョンジェがこの役柄を演じたことに驚きました。たぶん監督が、イ・ジョンジェのクールなイメージを壊したかったという意図もあったんじゃないかなと思います。
   実際、イ・ジョンジェは役作りにかなり苦労したらしく、ただ悪いだけのキャラクターでは視聴者に訴えかけるものがない、もう少し人間味を出したいと監督に直談判したのだとか。第1話で魚屋のおばさんにサバをもらうシーンがありますが、帰り道で野良猫にその魚を分けてあげるやさしさを見せるのは彼のアイデアだそうです。
(2)
ドラマの大ヒットで「ダルゴナ」の値段が高騰
  『イカゲーム』には、めんこやビー玉、だるまさんがころんだ(韓国では「ムクゲの花が咲きました:ムグンファコチピオッスムニダ」)といった子ども時代の懐かしい遊びが登場します。
  表題のイカゲームは、丸と三角と四角を組み合わせたイカのような図形を地面に描き、相手の陣地に攻め込んで行くゲーム。エリアによって両足が使えるところと片足しか使えないところがあり、敵味方に分かれて手で押したり引いたりといった攻防をしながら戦います。結構激しいので、日本の「けんけんぱ」の過激版といったところでしょうか。
   ちなみに私は30代ですが、私も妻も、子どもの頃に友達とこの遊びをしたことがあります。ただ、これが「イカゲーム」という名前だということは、私たちもこのドラマを観るまで知らなかったです。
   ドラマのなかにはノスタルジックなものが多く出てきます。「ダルゴナ」という、街角で買える駄菓子もそのひとつです。これは砂糖を熱して溶かし、重曹でふくらましてから潰して固めたもの。日本では「かるめ焼き」と呼ぶそうですね。韓国では単純な模様が型押しされていて、『イカゲーム』ではその形を崩さぬように型抜きをするゲームのシーンがありました。
   この「ダルゴナ」という駄菓子は原価がものすごく安く、私が子どもの頃は1個5円で買えました。その後10円に値上がりして、今はだいだい200円くらいだそうです。ところが『イカゲーム』の大ヒットで値段が高騰。もともと商売をしていた人が、ここへきて700円という高値で売っているというのです。さっそく韓国では「それはちょっと調子に乗り過ぎじゃない?」とニュースになっていました(笑)。でも、ドラマに出ていたような鉄の箱もセットになって700円なので、それならまあいいか、という意見もあるようです。
   余談になりますが、少し前に韓国発の「ダルゴナコーヒー」が日本でも話題になりました。私はそのときに初めて、「ダルゴナ」という言葉を知りました。おそらく海外用に、一部のメディアが呼び始めたのではないかと思います。そもそもダルゴナとは、80年代頃にあったブドウ糖を固めた真っ白なお菓子のことを言います。その後90年代に入ってから、体にも良くないし、美味しくないからと砂糖で作るようになったのですが、こちらは「ポッキ」と呼ばれていました。なので韓国では、『イカゲーム』に出てきたこの駄菓子をダルゴナではなく「ポッキ」と呼ぶ人の方が多いです。
(3)
韓国社会の貧困や格差を辛辣に描いている?
  『イカゲーム』はよく、韓国の貧困や格差を辛辣に描いた作品だと言われます。日本の記事を見ても、そのように分析している人がすごく多いですよね。でもこれは資本主義の先進国なら必ず抱えている問題で、別に韓国に限った話ではありません。
  むしろこのドラマを通して私が感じたのは、韓国の経済的な成長です。国家が発展して先進国の仲間入りを果たしたからこそ、ドラマや映画のなかで「格差」が頻繁に描かれるようになったのです。
   そもそも少し前まで、欧米から見た韓国は「どこにあるのかよくわからない国」でした。それが自国でオリンピックを開催し、BTSが登場したことで状況が変わり、韓国に興味を持つ人、韓国のことを知る人が増えてきた。
   最近、英語圏の国では韓国語でやり取りするのが流行っているようで、ネット上では「Who are you?」を「nugu? (ヌグは韓国語で「誰」)、「ありがとう」を「thx(サンクス)」ではなく「gamsa(カムサ)」と表記するといった現象も起きています。それもこれも韓国のコンテンツが世界に広まり、人気を得た結果だと言えるでしょう。
   もう少し韓国の現状をお話しましょう。 もともと韓国人は投資好きですが、今や社会で上のクラスに上がるには投資が不可欠になってしまいました。投資先で一番人気があるのは不動産。なぜなら韓国は世界でも珍しく、不動産の価値が絶対に下がらない国だからです。
  「ソウルで不動産が一番安い時期はいつでしょう? それは今日です」という言葉がありますが、それは本当。買ったら確実に値上がりするので、誰もが賃貸ではなく、無理をしてもマンションを買いたがります。そして値上がりしたら売却して、もっと良いマンションを買う。そうやって資産を増やしていくのです。
   政府も特に対策を取っていないので、30年前から「そろそろ不動産バブルは弾けるよ」と言われながら未だに弾けていません。サラリーマンのお給料は日本とほぼ同じなのに、今やソウルで普通に住めるマンションを探そうと思ったら1億5000万円以下で見つけるのは難しい。一番高い江南というエリアだと、物件価格は5~6億円(200平米あたり)にもなります。
   『イカゲーム』は、お金に窮した人間と、お金があり余って退屈している人間がデスゲームをする話ですが、これは「資本主義社会の縮図」だという見方もできます。現実の世界でも、持てる者と持たざる者の格差は広がるばかりです。世界各地で1位を記録したのも、そういった世界各国の共通の問題をこの作品から感じた人が多かったからとも推測できますね。
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「カクトゥギ」という韓国ならではのシステム
  ソウル大学卒のエリートだったのに、先物取引の失敗で莫大な借金を背負ってしまったギフンの幼馴染みのチョ・サンウ。彼は第2話で練炭自殺を試みますが、海外には練炭を知らない人もいて、「あの卓上コンロの上に乗った黒いかたまりは何だ?」と不思議に思ったようです。
   これは着火炭(ちゃっかたん)というもので、着火剤のように火がつきやすいものです。またもや余談ですが、韓国ではタレントが練炭自殺をして以降それを真似る人が増えたことから、現在では有名人が自死をしても詳細を報道することは控えるようになりました。

   また、脱北者のカン・セビョクが出てきますよね。韓国では、脱北者に対して最低限の社会保障はあるものの、それだけで過酷な競争社会を生き抜いていくのは難しい。しかも脱北者は、何か理由があって南に来たのではとスパイ行為を疑われ、四六時中監視されています。
  彼女も一緒に脱北した幼い弟と暮らすために、大金を得ようとゲームに参加していましたね。今の韓国社会は、大卒というだけではいい仕事に就けない人もいます。そんな社会構造の中では、学歴もない脱北者の生活は本当に厳しいのです


   最後に、ドラマのポイントではないかと思う言葉についてちょっと説明をさせてください。ドラマのなかで「カクトゥギ」という言葉が出てきます。この「カクトゥギ」は韓国ならではのシステムで、チーム分けの際に余ってしまう弱い人を「仲間に入れてあげること」をさします。
  他に、大人のサッカーチームに子どもが1人混じってプレーする機会があったとして、その子だけは手を使っていいよといった感じでアドバンテージをあげる、みたいこともカクトゥギになります。
   ちなみにカクトゥギは、皆さんおなじみのカクテギ(大根のキムチ)ですが、韓国語での発音は「カクトゥギ」に近いです。これはキムジャン(大量にキムチを漬ける韓国の初冬の行事)をする際、余った大根でオマケ的にカクテキを作ったことに由来しています。
  「弱者を助ける」という気持ちでもあります。でも今の社会は、この「カクトゥギ」の精神が減っている。そんな思いも込めて、この言葉をドラマに組み込んだのではないかと推測しています。
   韓国では、『イカゲーム』についてあまりに多くの人が作品の分析・考察をしているので、最近では「もう分析はいいよ!」という声も上がっています(笑)。また「監督が『イカゲーム2』を作るのではないか?」「次はギフンがフロントマンになるのでは?」といった感じで、続編についての予測もたくさん出ています。
  その一方で「ここまで深読みされたら、もう2を作るのは無理だよ」という悲観的な意見も。いずれにしても、もしも作るとなったら監督は大変なのではないかなと思いますね。
   もうすぐハロウィン。今年は韓国の街のあちこちに、緑のジャージや赤のジャンプスーツを着た人たちが出没することでしょう。
構成・文/上田恵子





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